ヤビツ峠のメッサーシュミット番外編その1
こちらは番外編、本編とは関係なく
モデルキャラクターのみを使っています
基本的にサクッと読める長さにしたつもりです!
『死装束』 「なぁ・・・やっぱ帰ろうって、ホント」 不気味に、夏の夜らしい生ぬるい風が肌をさする。 3台の車が煌々と照らすヘッドライトの先には 薄気味悪さが直接伝わる様なトンネルが 怪しく、口を開けて通行人の往来を待っている。 ビデオカメラ片手に、ワクワクとしている男 怖いもの見たさで興味を持っている男 完全についてきたことを後悔している男 「何をここまで来て置いて言っているのかね?ン?」 怖がる男の肩をポンポンと叩く男 「だってよォ、幽霊とかそーいうのってからかうもんじゃぁ・・・」 「撮影だから大丈夫!撮影!」 「やっぱ帰ろう!そうしよう!」 「Wait!撮影終わったら、可愛いコが居る店紹介するから!」 「断る!可愛いコは自分で探す!」 「待て待て!その死装束の女、気にならない?」 「・・・気になったけど、やっぱり・・・」 「高寺ァ、らしくないじゃねーか、そんなんでビビるなんて」 「怖いもんは怖い!帰ろう!なっ!?」 高寺を説得する180セカンズの春築 その横で、何も喋らない桜宮、事の発端は、つい昨日のこと 『【恐怖】車にまつわる怖いスポット報告スレッド【体験】(427)』 という、某巨大匿名掲示板での情報を 春築が検証しようと、丁度居合わせた高寺と桜宮を誘ったことに始まる。 桃野は決してついて来ようとはしなかった。 昨日と言っても、日付の変わるつい数時間前 実質、着の身着のまま、このスポットを訪れたというわけだ。 中でも、春築を惹き付けた情報が ―― 288 : 普通心霊免許さん:2010/08/28(土) 16:44:44.01 ID:Rb26deTt 東京のM市にあるT旧道にある Tトンネルを70km/h以上で走りぬけると 車に死装束の女がへばりついてるとか・・・ 301 : 普通心霊免許さん:2010/08/28(土) 16:49:53.45 ID:jZa70aGt >>288 知ってる、この前それで、有名な銀と黒のツートン徹仮面DR30が それに気を取られて、事故ったと聞いたお なんでも、フロントガラス一杯にへばりついてたとか・・・ 303 : 普通心霊免許さん:2010/08/28(土) 16:50:31.12 ID:Fd3s13Bre >>301 ガクガクブルブル(AA略) 305 : 普通心霊免許さん:2010/08/28(土) 16:52:19.02 ID:w211e320mb >>301 徹仮面スカイラインがぁぁぁぁぁぁぁ! カワイソス・・・・ ―― この一連の書きこみを見つけ、意気揚々と2人を連れ乗り込んだ春築 自慢のビデオカメラを片手に、目当ては死装束の女 やはりどこまでも車好きという事だろうか 桜宮はこの峠の走行が目下の目的にすり替わった様で 死装束の女の事はまったくと言っていいほど留意していない 「さ、一本目行ってみよう!先頭はゴルフ」 「次にエボだな」 「最後尾オレ!?」 「そりゃぁそうだろう、ゴルフで前と後ろをカメラで撮影 ランエボにも前後取りつけ、M3には前だけ」 「よく5台もカメラあるな・・・」 「車載動画も趣味の一環だからな」 「アベレージスピードはこのトンネル通過時だけ70km/hくらいで」 「了解、任せろ!」 「帰りてぇよ・・・マジ・・」 「あ、連絡用のヘッドセッド」 「ぬかりねぇな・・・」 ヘッドセットを配る春築、呆れる高寺 エグゾーストを高鳴らせ、発進していく3台 ヘッドライトの明かりしかない旧道に 3台が通り過ぎた後は、暗闇が紺色に染める。 「・・・!」 3台が走り始めてすぐに、高寺が青ざめた声で ヘッドセット越しに言葉を震わせる。 《お・・おい、今・・・》 《モヤだろ?モヤ》 スパッと高寺の報告は春築に切られる。 峠自体の長さはさほど、長くもない 何本か走ったところで、さすがにその存在が 所詮、噂の産物なのだろうという空気が漂い始めた。 事故を起こしたと聞くDR30スカイラインの話は 誰かが面白がって脚色したものだろうと 峠自体は楽しく、少々道の質は悪いものの その具合はWRC好きの3人にはコルシカ島を連想させ しばし楽しみ始めてしまった。 「さて、現在3往復目です、ウワサの死装束はまだ現れませんねェ」 等と、投稿動画用のナレーションも同時収録しつつ 余裕の春築、おそるおそる・・といった空気は薄くなりつつあった。 頂上の休憩所には清涼飲料水の自動販売機もあり 休憩を取りつつ、映像のチェックと相成る。 「なんか映ってたー?」 ウーロン茶の缶を片手に、なんだかんだで 記録されてる映像を見る高寺 「・・・・」 高寺の問いかけに、春築は言葉を返さない 「ま、まさかホントに映ったわけじゃぁないよな!いなかったもんな!」 3台ともボンネットを開け放ち、クールダウンする最中のこと 静まり返る空気に、エボのボンネットを開けて 顔を突っ込み、何かをしていた桜宮も2人の方を振り返る。 「イヤぁ・・・コレ・・・」 春築が高寺のM3に搭載していた映像を高寺自身に見せる。 カメラが振動で一瞬、ザッとなった瞬間にコマ落ち まさにその瞬間に、白い死装束の黒い長髪を垂らした人姿が映る それもホントにホントの一瞬 しかもトンネルの入り口、上り方面から来たときのトンネルの 右側、向こうはすぐになだらかであるが土手となり 白い装束を着ながら立つ道理は全く無い。 カランッ・・・ 高寺はあまりのショックに缶を落とす。 桜宮も映像を覗きこみ、少し顔の温かさが消えるのを感じる。 「え・・高寺、気付かなかったの?」 「き!気づかないって!居なかった!そんなの居なかった!ハ、ハハハ!」 「でも、カメラのレンズになんも汚れはないし・・コマ落ちにしろ・・」 「か、帰るぞ!」 高寺は2人を前に、明らかに動揺した抑揚で帰宅を促す。 足早に愛車の元へ行き、ボンネットを閉める。 動揺の空気が3人を支配する中、3人の乗る車はいつもと変わらない 機械であるにも関わらず、この無生物感の冷静さが 逆に冷たさを感じる、心が落ち着かないせいか 先ほどまで乗っていたのにも関わらず、シートやシフトが冷たい気がする。 いそいそと自分の根城に逃げ込む高寺を2人は冷静に映像を見返している。 「か、帰ろうぜ!か、帰るぞ!」 高寺がエンジンをかけようとしたその時 「キャァァァァァァァァ!!!!」 一筋のハッキリした女性の叫び声がヤマを包む 突然の事に胆が急激に冷える3人 タイヤのスキール音だろ・・ハハッ・・などとは誤魔化しようもない 自分を誤魔化せない、完全な悲鳴 この声の直後、桜宮も素早く迅速に帰宅の準備 誘った当の春築も焦りの顔で帰宅の準備を始める。 《よし、今から帰るぞ、車間は詰めるな》 《了解》 《さいです・・・》 なぜかリーダーシップを発揮する高寺、よほど怖がっているようで 声には、一刻も早くヤマを下りたいという意識がはっきりと聞いてとれた。 激しいタイヤスキールを鳴らし、高寺を先頭に3台の車はヤマを脱出にかかる。 先ほどまで遊んでいた時とは比べ物にならない速度で そのアベレージスピードは割と高く 高寺と桜見に、春築のゴルフは遅れを取り始める。 「ちょ!あぁぁ!見捨てないでェ!お願い!」 ――Please don't leave meeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeee!!!!! 春築お得意の英語での大きな叫びも届かず、2台はどんどん先へ消えていく ――同じドイツ車乗りを見捨てていくのかぁぁぁぁぁぁぁ!!! が、当の高寺には届かないし、桜宮にも届いていない。 峠のダウンヒルで高寺のM3はSMG2をフルに発揮 尋常じゃないペースで桜宮すら引き離そうとする。 「相当キてるな・・・高寺・・・」 と、そして噂の現場とされるトンネルに最初に突入する高寺 その後にすぐ桜宮が続く、アベレージスピードは80km/h が、突如として高寺のM3から煌々と真っ赤なブレーキランプが 一気にトンネルを真っ赤に染め上げる。 刹那、桜宮もブレーキを踏みこみ、トンネル内は更に赤く染まる。 対して長くもないトンネル、ブレーキによる制動を終える頃には もうトンネルは出口じゃないか、というところ しかし、高寺はM3を止めた。 エボを降り、高寺に駆け寄る桜宮 「どうした!?」 生唾を飲み込み、茫然と前を指さす高寺 完全に顔からは血の気が引いている。 「あ・・・あ・・・あぁ・・・・」 止まる2台に追いついた春築も何事かとゴルフを降り M3へ駆け寄っていく 「待っててくれたのか・・・って感じじゃないね」 M3のドアを開けてライトの照らされる先を ピタリと固まり、動かない桜宮 彼もまた、血の気が引き、顔が引きつっている。 プァァァァァァァァァァァァァァ!!!! トンネル内にM3のクラクションがけたたましく響く 驚いた春築が車内を覗くと、高寺がステアリングに突っ伏して動かない 「おい!おい!何があったんだよ!」 言葉はとうぜん、行動も返してくれない2人に 不安はより加速し、必死に高寺を揺さぶっても起きてくれない その横で桜宮はドタッと尻もちをついて座り込んでしまう 「桜宮ァ!?」 「あ・・・嘘だ・・・・死装束・・・女が・・・」 ハッとライト豊かな光量の向こうへ目を向けると ポツリと長い髪の女が立っている。 瞳孔が一気に開き、女の姿が蒸発して見え 女が遮った光の後ろの影が、何かをまとっているよう見せ 春築はカメラを向ける余裕もなく、固まるしかない M3の響きっぱなしのクラクションだけが 意識を失わせなかった。 影を纏った女はジリジリというよりペタペタとはだしの足音で こちらへ迫ってくる。 恐怖に押し切られ、春築も桜宮と同様に尻もちをつく 気を失った高寺の踏み続けたブレーキランプに 女も染まるほど距離が近づいてくる。 「あ・・・あわ・・ふぁぁ・・・」 不抜けた情けない声を出すしかない 息をするので精いっぱい 黒い髪が垂れ下がっていることで全く表情は読めない ついに女はへたり込む春築の前まで来てしまった。 ピタリと足を止める女、春築には時間がまるで止まった様な感覚を覚える いや、世界は完全に止まったと思った。 突然にしゃがみこむ女、目線の高さが揃う 「ひぃぃ!!!」 はいずって逃げようとする春築の腕をガッと掴む女 「わぁぁぁぁぁぁ!!!!!」 春築の叫びの後ろで、桜宮は腰が抜けて動けない すると、何人もの人間が突然トンネルの中に慌ただしく駆けこんできたではないか 桜宮の目にはジーパンに半そで、それも若い男女が何人も 高寺のM3に駆け寄って、高寺の身体を起し、シートに押し戻す。 クラクションの断末魔が途切れると同時に、春築も桜宮も人々に囲まれる。 耳に声が届くようになると、それぞれ口ぐちに 「大丈夫ですか!?」 と問いかけられてることにハッとする。 下を向いて、目をギュッと瞑った春築も 恐る恐る目を開けると 若い男がこちらを覗きこみ、申し訳なさそうな顔をしている。 「へ?へ?」 状況が全く把握できない、騒がしく動き回る男女の中に さっきまで自分腕を掴んでいた死装束の女も居て、普通に 水の入ったペットボトルを持って桜宮に渡している。 「撮影・・・」 ひと段落した頃だろうか トンネルを出て、その先で止まる3台の車 桜宮はホッとしつつも恥ずかしさ半分 春築も「なんというか・・・」という顔をしている。 高寺は意識は回復したものの、依然グッタリしている。 なんでも、先ほどの悲鳴も死装束の女も 全部、大学生の映画製作サークルが行っていた 恐怖フィルム撮影のためで 監督を務める3年生の男子大学生が 先ほどからしきりすいません、すいませんと繰り返している。 「あっいいんですよ、そーいう話を聞いてきてたもんですから そんなに謝らなくても大丈夫ですよ」 桜宮が男子大学生に頭を上げてくれと言葉をかける。 「でも・・・」 と申し訳なさそうに高寺の方をみる大学生 気絶させてしまったことを申し訳なく思っているらしい 「あー大丈夫ですよ、そのうち元気になりますよ」 「それにしてもスゴイ特殊メイクだねェ・・・」 特殊メイクを施された死装束の女子大学生を見る春築 「あ、あの役は男がやってるんですよ」 「男ォ!?」 驚きを隠せない春築、顎がカコーンと落ちる 「こんなとこで、女の子に特殊メイク被せての撮影はちょっと危険なので」 「スゴイ、チカラの入れようだな・・・」 「でも、なんでこんな深夜に撮影を?」 時計を見て午前3時になろうかという時刻に疑問をぶつける桜宮 「ゲリラ撮影なんです。許可なんてのは下りなくて」 「でも、どうしても欲しかったのか、このカットが」 「そうなんです!」 カメラを扱う者同士、なぜか意気投合し始めてる春築と監督の大学生 なぜか台本を片手にパラリ、パラリとめくる春築 「むおっ!車のシーンがあるじゃないか!」 「走って追いかけてくる死装束女からの逃亡シーンですね」 「これ、協力しようじゃないか!」 クルリと後ろを振り向く 「え?俺も?」 桜宮も突然のフリに茫然 「ホントですか!いやぁ助かります!気迫のこもった運転が必要で」 ――さっきから、あそこに居る奴が死に物狂いで峠を怖々走ってて なかなか良い映像にならなかったんですよー 「あぁ・・さっきから彼が胃薬を飲んでたのはそのせいなのね」 納得する桜宮、なんだか胆の冷やし方は別だが 運転役の大学生には少なからず共感できた。 『後日:喫茶<街>』 「で、運転に協力したの?マーチはどう?」 日産車を運転して撮影したことに興味を示すのはやはり桃野 「まぁ楽しかったよ、FFのノーマル車を振り回すのも中々」 マーチの感想も交え、すこし嬉しそうに笑い話として披露する桜宮 テーブル席には桃野、桜宮、高寺、春築 隣のテーブルには赤藤と廣和、それに嶋倉もいる。 「冗談じゃねーよ、ホントあの日で人生終わったと思ったんだぜ、ったく」 テーブルに突っ伏して高寺は不機嫌そうに喋る 「じゃぁ、そのDR30が事故ったのも、その子達が撮影してたってこと?」 「そういえば、DR30の事故の日にどうしてたかは聞かなかったな」 「よーし!注目!これが当日の実録映像だ!」 その後、喫茶から恐怖に慄いた叫び声が木霊した。 また高寺は気絶し、当日に峠へ向かった3台と3人の車とドライバーは 神社に担ぎ込まれ、厳正なお祓いの後、神主から魔よけのお札 それから、3台の車もお祓いを施されたのは言うまでもない なぜならば、春築が高らかに開始した上映会の映像には しっかりと騒ぎの中、M3に乗り込む"質"の全く違うヒトの姿をしたものが 車に乗り込んでいた・・・ 身の毛が一気によだつ瞬間をカメラは克明に捕らえていたのだった。
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