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このロゴも結構古いです。

ヤビツ峠のメッサーシュミット

読者参加型の小説、管理人が中学生の時に書いていたものを、サイトリニューアルに合わせてリメイクしているものです。

	ここは秦野市丹沢山ヤビツ峠
昼でも人通りが少ない峠は深夜を迎えると
その姿を変える・・・・・

「俺の名は赤城 玄白、ココらで生まれて最近は就職も果たした。
家の糸工場は継がなかった、俺にはやりたいことがあるし
しっかりとした理由を伝えたら親父もわかってくれた。
なによりも俺は車が好きだ。
今、俺は愛車RX-8でヤビツ峠の入り口にいる、ここは
走り屋が集まることで有名だが、この時間ならまだいないだろう
なぜ、こんな狭いとこを通らなければならないかは
ヤビツで近道しないと、彼女との待ち合わせに遅れちまうからだ
近道すれば余裕で待ち合わせに間に合うワケ
別に走り屋を自負するわけじゃないが、運転にはわりかし自信がある。
RX-8のアクセルを徐々に踏みたしていくことにしよう」




第一章

ヤビツ峠に入り快調に飛ばす玄白
左右に振りかかってくるコーナーをスルスル抜け
車が好きである以上、一定のリズムで走れるとノリにノッテくるのだ
上機嫌にRX-8を飛ばし、車内にかかるお気に入りの音楽が
さらに気分を高揚させ、彼女の待つ場所へ急ぐ

しかし、先ほどからチラチラと一台の車が追ってくる。

しかもペースは速く、玄白のRX-8との差をガンガン詰めてくる上
ヤビツは道が狭く、自然に背後にぴったりつかれてしまう

「くっ!」

背後の車は容赦なく煽りをくれてくる。
玄白に速度を引き上げるように促しているようだ。










ヤビツをやっとの思いで無事に抜け時計に目をやる。

「おかげさまで、40分以上早いじゃんよ・・・・」

休憩所で一休みする玄白のRX-8の窓を何者かがノックする。
ハッと窓側を見返り、ウィンドウを下げる。

「お前なかなかいい走り見せてくれるな!」

「一体なんですか!いきなり煽りくれて!」

「俺は高寺、見ての通りM3のCSLに乗ってるもんだ宜しく」

類は友を呼ぶのか、そのM3CSLの横に黒いR32GT-Rが止まる。

「あれー?ニューフェイス?」

「おぉ、桃野じゃないか」

「R32の桃野・・・・・聞いたことがある・・・ぞ」

「おっ、知ってくれてるの?嬉しいねぇ」

「紹介するよ、ここでもう一台のR32と速さを二分する男だ。」

「いかにも、アテーサの魔術師だなんて呼んでくれる人もいるらしいがな」

「俺にはバルケンクロイツ高寺なんて呼ばれてるみたいだけどね」

「バルケンクロイツって・・・・そういえば!」

「その感じは知ってる感じだな!」

「知らない・・・・」

顔面で逆立ちするぐらいズッこける高寺、傍らで爆笑する桃野

「そーだよね、知らないよね、知らないよね・・・・」

「あっ!デートに遅刻しそうだということを思い出した!」

「知らないよね、知らないよね」

「あぁっ!デートに遅刻する!」

突如時計を見て叫ぶ玄白、どうやら40分と見積もった余裕は
半分の見間違え、20分だったようだ。

「彼女持ちは大変なんだよなぁーうんうん」

横でうなずく桃野

「エリザベスが国民と結婚したとか抜かすなら、俺はM3と」

「はいはい、万年一人身はお静かに」

「うぐぅ・・・・!」

「RX-8の君、今度、詳しい話をしよう」

「詳しい話?」

「俺たちに会いたくなったら、この峠の入り口近くにある
小さなカフェ「街」に午後5時以降来れば、だれかしらいるはずだ」

「・・・・時間があれば」

そう残すと、玄白は二人の目の前から走り去った。

「で?高寺サンが声かけてるなんて珍しいじゃん」

「いやぁ、なんか最近エラく筋通った走りかますのがいるな・・・と思って」

「探してた?」

「噂に聞いていたからね」






あの出会いから早々に一週間、「街」には玄白のRX-8が停まる。
ロータリーサウンドはあまり聞こえず、チューニングもろくすっぽ
施されていないことが受け取れる。

カランコロンカラン

喫茶のドアを開けると、真っ先にカウベルが玄白を出迎え
カウンター席には高寺と桃野の姿が見える。

「いらっしゃい」

ナイスミドルの男性、というかマスターが当然の出迎えで
玄白に会釈をする。

「おー来た来た」

「ども」

「お知り合いで?」

「うん、まぁ」

桃野がマスターの質問に答えていると、間髪開けずにもう一度ドアが開く

「よー」

なんだか抜けた挨拶と共に現れた男

「あれ?新顔?」

「そ、新顔」

「はじめまして、玄白です。」

「紹介しよう」

そう高寺に紹介される男の手には三菱のキーが握られている。

「ココでランエボ[ったら桜宮っつーぐらい有名なんだ」

「よろしくな、新顔クン。マスター俺ブラックで」

「よ、よろしく」

なにくわぬ顔で玄白に自己紹介を済ませると
煎れたてのコーヒーを飲む桜宮

「この前、言ってた慕うリーダーって」

玄白がふとした疑問を切りだす。

「それはだな」

桜宮がコーヒー片手に玄白の疑問に答える

「常に俺達を凌駕し、感動と驚きを与えてくれる人さ」

「チーム名とかは?」

「チーム名?あぁ俺たちのチーム名のこと?」

「名前は"シュヴァルベンシュヴァンツ"だ。」

高寺が自信満々に玄白の疑問に答える。が

「シュバルベンシュヴァンツゥ?」

「シュヴァルベンシュヴァンツ!」

「シュジュバルヴェンシュッバッツ?」

「シュ・ヴァ・ル・ベ・ン・シュ・ヴァ・ン・ツ・!」

「まぁまぁいいじゃないの」

発音にこだわる高寺を桃野が抑える。

「まぁ噛むわな」

笑いながらコーヒーを飲み干すと

「そういやぁ今日は何日だっけ?」

「確か・・・・ハッ!」



「ジパングGTが来る日じゃないか!」
「ジパングGTが来る日じゃないか!」
「ジパングGTが来る日じゃないか!」



シュヴァルベンシュヴァンツの三人がそろって顔を見合わせ
叫びながら急に忙しなくなる。

「たしか、ジパングGTというと、桃野さんと速さを二分する
GT−R乗り、和平がいますね」

マスターが桃野を見ながら、ジパングGTのリーダーを思い出す。

「負けませんよ、R乗りってのは人一倍負けん気強いですから」

「さて、マスター、今何時?」

「もう夜9時ですね」

「んー、そろそろかぁ仕事終わりには堪えるけどやんなきゃな、シュヴァルの名の元に」

高寺と桜宮が伸びをしながら、代金を置いて外へ出ていく

唖然として、2人を見送り、玄白は眼の色が変わるシュヴァルの3人に
少し圧倒されていた。

「マスター、ごちそうさま、それと玄白、お前も来てみろ」

「え・・」

「まぁいいからさ、来てみろよ。」

喫茶店の前で、迫力のエグゾーストが4台分、ヤビツ峠の休憩所
いわば勝負を受ける場所へと移動する。

待ち合わせの場所は休憩所のちょっとしたスペース
そこまで3台は勢いよく飛ばしていく、最後尾を走る玄白は
流している3台に離されることに、いつもとは違う感情を抱く

「なんで速いんだ?あんなに・・・」

疑問に思いつつも、見失わない程度に流すだけじゃ間に合わなくなり
玄白だけは割と、アクセルを踏み込んで待ち合わせの場所まで
3台の後をついて行く。


半ば、桜宮の後姿を見失いそうになりながら、待ち合わせの場所につくと
峠の入口の方から、2台の車が登ってくるのが確認できる。

「あれですか?」

玄白が指をさしながら、迫ってくるヘッドライトを見つめる。

「あぁ、そうだ・・・・とうとう来たか」

高寺が仁王立ちで構えながら、2台の到着を待つ。

やってくる車は、見る限り日本車と外車のペア
スペースにシュヴァルと対峙する形で車を停めると
ガンメタに塗られたR32の中から、1人の男が出てきた。

「どうも、燕のシッポの皆さん」

「確かに燕のシッポだが、シュヴァルベンシュヴァンツと呼んでほしいなぁ・・・和平ぁ」

「桃野、このエリアでR最速の異名はわたさねーと言ったはずだが?」

「けっ!俺のR32についてこれてからその台詞聞きたいね」

「しかし、今日は俺とお前のバトルじゃぁない」

そう告げる和平の横に、一人の男が立ち現れる。

「コイツがどうしてもお宅のBMWと戦いたいらしいんだ。」

「・・・・」

「そうなんだろ?篠岸」

「そうとも、お前たちがトップ面で走るのも今日までってこった
まず、そのドイツ野郎から料理ってわけだ。」

「なんだ、そんな峠でV8アルファを振り回しやがって」

高寺も負けじと鼻で笑い返す。

「さぁ高寺!俺のアルファに食われてもらおうか!」

「へっ!俺のM3に楯つこうってか!返り討ちだ!」

大排気量NAエンジンの2台がスタートラインに並べられる。

「なぁ玄白、お前の走りを見てみたい、あの二人の後ろについて行け」

玄白は、生唾を飲み込み挑戦的な返答をする。

「・・・・・付いて行けと?」

「ちょうどいいな、行ってきて見ろ、走りに自信はあるんだろ?」

桜宮がさらにそれを焚きつけて、玄白を駆り立てる

「やってやる!ついて行くさ!」

「なーるほど、そいつは新人ってわけか?」

和平が新顔に興味を見せる。

「文句ないだろ?」

「別にかまわねーよ」

スタートラインに緊張がほとばしる
8CとM3のブリッピングが響き渡り
桜宮が間に立ち、両手を頂点から振り下げる。
派手にタイヤスキールを喚かせながら、二台が勢いよくとびだしていく。

互いにFR同士、ホイールスピンもそこそこに2速、3速とギアをあげ
ただでさえ狭いヤビツ峠を二台はフルスピードで駆け抜ける。
軽さの上では絶対優位のM3CSLだが、8Cもその用途の違う走りにも関わらず
M3CSLを執拗に追いかけ回すほどのフットワークを持っている。
玄白はついて行くだけでも精一杯、必死に必死に
死ぬような思いの瀬戸際でRX-8を飛ばしても、2台は離れていく
内心に恐怖感がジワジワと広がり、アクセルを踏みきれなくなっていく

「おぃおぃ・・・ッ!そんなペースで突っ込むのかよ!」

玄白のシャツは汗でぐっしょりと湿り、手も冷や汗をまとい
心拍数も陣所じゃ無く上昇する毎秒毎秒に正常な判断能力は
確実に失われていく。
パーシャルスロットルで抜けれるコーナーも
逐一ブレーキを踏み、気を引き戻すしかない。

恐縮しきる玄白をよそに、2台はヤビツ峠で唯一の直線に突入する。
峠でありながらパワーのある車によっては200km/hまで手が届く直線
大排気量NA車ならばその領域まで迫ることは不可能ではなく
コーナーの抜け出しが重要視され、篠岸がM3CSLの後ろでスリップストリームに入る
パワーで上回る篠岸の8Cがボリュームあるボディにも恐れず、高寺の
M3CSLの真横に並び、次の右コーナーへのカウンターを準備する。

「強引だなッ!」

高寺も限界までアクセルを踏み込む、SMG2の反則的な早さのギアチェンジを
持ってしても、出口で脱出型のラインからスリップストリームに乗せた
篠岸のアドバンテージは大きい、M3CSLを半分抜かした状態で
コーナーへ侵入、前後が入れ替わる。






が、しかし






峠の向こうから、一台のヘッドライトが目前まで迫ってきたことに気づく
コーナーを5〜6つ抜ければはち合わせるが
次のコーナーを抜けてくると、その対向車は赤いパトランプを回転させていた。

フルブレーキングで止まると、2台は向きを変えるために
必死で向きを切り返す。
遅れてやってきた玄白も、赤いパトランプに焦りが頂点に達し
まさかのエンストを喫してしまう。

慣れた手つきで方向転換を終えた2台が玄白の遅さに苛立ちを隠せない

「玄白ぅ!遅ぇぞ!早くしろッ!」

「ひぃぃぃ!なんかごめんなさいぃ!」

玄白がもたつく隙間を縫って篠岸が先に脱出する。

もう、パトカーは2〜3つコーナーを挟んだとこまで差し迫ってくる。
やっとの思いで玄白も方向転換を終え、高寺に尻を叩かれるように
来た道を戻り始める。

「ボクサーサウンド!?」

窓を開けながら走行する高寺は、自らの耳を疑う
バックミラーに映ったパトカーが、道路灯に照らされうっすら確認できる。

「な・・・・!!!」

高寺は、玄白にパッシングやホーンを使って全力でまくしたてる。

「なんで最新型のインプがパトカーしてんだよぉぉぉぉぉ!!!!」

相手のパトカーはそこまで全開でないのか、一定のペースに達すると
互いの間合いは拮抗してくる。

「いいから、アクセル踏めぇ―――!このすっとこどっこいが―――!!!」

「ひぃぃぃ!無理無理ぃぃぃ!!!」

会話は直接成立していなくても、自然に筋が通ったようなセリフがそれぞれ
出てくるのには苦笑するしかない。

先に到着した篠岸によって、和平と篠岸は脱出を図る。

「俺たちはどうする!?」

桃野が桜宮に作戦を問う

「いつもどおりだ!あそこから山の中に隠れるぞ!」

R32とエボ8がスタート地点より少し先のガードレールの合間から
車やっと一台分のスペースに紛れ込んでいき
砂利を踏み分けながら、道路から見えないところまで行くと
桜宮と桃野は車を止め、ガードレール入口近くまで走って戻る。

あくせく、ひぃひぃ言いながら戻ってきた玄白を引き込むと
高寺も後に続いて、林の砂利道へ紛れ込んでいく

そのすぐあとに、インプレッサのパトカーが通り過ぎていく
どうやら、目眼先に見える、ジパングGTの後を追うことに
気を取られたに違いない。
しっかりと林への入口は見逃していく。

「いったか?」

「あぁ、行った」

林に影を潜める4人の男は胸をなでおろす。

「なんなんですか・・・・まったく・・・」

「こっちのセリフだ!ささっと引き返せ!エンストしやがって!」

「うぐぅ・・・!」

「まぁーまぁー、御厄介にならなかったんだからいいじゃないの」

桜宮が高寺をなだめる。

「でも、この細い林道は?」

「あぁ、地元の猟友会の人たちが使う、山の中に軽トラで入るための道」

「あー猟友会」

「だからほら、すげー狭いだろ」

桃野が指さすとおり、R32やM3CSLは道路いっぱいぎりぎりの幅で
タイヤははみ出しそうだ。

「さ、出るぞ」

最後に入った高寺から普通にバックしていく

「えぇぇぇぇ!これバックで出るの!?」

「そうするしかないだろ?この先切り返すとこなんてないぞ?」

あたりまえのように桜宮が答える。

「・・・・・」

「なんだ?できねぇのか?」

笑いながら桃野が玄白の顔を覗き込む。

「やれる!やったろうじゃないか!」

RX-8に乗り込むと、威勢良くバックを始める

「おーおー随分とクラッチつないでくねー」

「うぉぉぉぉぉ!」








フギャァァァァン・・・・・













「あ、脱輪した」
「あ、脱輪した」












桃野と桜宮の目前から消えた瞬間、もうすぐ出口というところでRX-8が
お尻を道路から外し、脱輪していた。
車外では失意体前屈でへたれこむ玄白

R32がRX-8のすぐ前までバックしてくると、手際よく桃野がトランクから
サーキット規格の牽引用ワイヤーをRX-8に結び、桜宮がRX-8に乗り
脱出を図り、道路に呼び戻したらそのまま、桜宮が脱出させてみせる。

「くそぅ・・・・・」




「さ、今日はもうお開きだ、マスターんトコまで戻るぞ。」

桜宮がそう締切り、4台は一路「街」を目指す。









喫茶「街」の駐車場に追手を逃れた四人が駐車し一休み
難を逃れたというホッとした空気が漂う

「ふー、あぶなかった」

M3から下車した高寺が開口一番に安全宣言をし、伸びをしている。

「あれ?」

玄白は、喫茶の陰に止まる一台の車に目を奪われる。

「ベレGだ・・・・」

「ん?あのベレGが気になんの?」

桜宮が玄白の横で質問を拾い上げる。

「えぇはい、こんな綺麗なベレG見たことないな・・・って」

「これはマスターんだよ」

「マスターが?へぇ〜」

しげしげとベレGを見て回る玄白、綺麗なボディやくすみ一つない
メッキパーツ達、タイヤも綺麗に履きこなしている。

「ずいぶん綺麗な状態保ってますね」

「そりゃそうさ、マスターは改造からセッティングまでこなしちまうんだ
20年前ほどはこのベレG、ヤビツで敵なしだったってハナシだ。
サバンナやハコスカそれ以降のセブンにランタボも敵わなかったくらいだからな」

桃野の捕捉を聞いて目を丸くして驚く玄白、無理もない
普通、ベレGでセブンやランサーをちぎったと聞けば、車の大抵の
スペックや年式からはじき出すハンディキャップはそうとうなもの
それをものともしないマスターに驚くのはあたりまえといったところ。

「す、すっごいですね・・・・」

「マスターをなめちゃぁいけないよな、そうそう
いい知らせと悪い知らせがあるんだけど?」

高寺がハリウッド映画でよくつかわれる件をまねて三人に問う

「じゃぁ、いい知らせってなに?」

桃野がいい知らせを聞きたいと選択する。

「先日だな、俺の育ててたクワガタの幼虫がふk」



「昇龍拳!!!」
「タイガーアッパーカット!!!」



桜宮と桃野が高寺を上空へ突き上げるような必殺技でツッコミをいれる。



「ちゃーはん・・・ちゃーはん・・・ちゃーはん・・・」



「まったく関係ないじゃないですか!」

炒飯と言いながら倒れる高寺に唯一、玄白だけがまともなツッコミを入れる。

「っぐ・・・感動したんだぞ・・・・」

「はいはい、で悪い知らせは?」

「それがだな、東名高速での最高速アタックで知られる米軍のチーム
シャーマンシサイドズから、勝負だー!的な挑戦状が片言の日本語で
メールとして届いたんだよ、俺たちの車はユーチューブに載せたぜ!
って書いてあったから、見たら、まぁー速そうなんだわ
どうするよ?桜宮、桃野」

「別に俺はかまわねーけど」

「俺もだ、ランエボでいけるとこまでいく」

「シャーマンシサイドズ?」

「すっげーぞー800ps、700psあたりまえのチームだ。」

「え・・なんですかそれ」

「そーいうカテゴリーってこっちゃ」

「ま、そんなわけで最高速向けのセッティングを出さなきゃいけないんだけど」

「まてまて、バトルするとこは東名高速か?」

「んーどうなんだろうな?」

「おぃぃ!聞いてないのかよ!」

「まぁ、なんとかなるっしょ」

肝心な部分を忘れてる高寺、心配する桜宮、楽観的に構える桃野
これでよくうまくシュヴァルが回るな、と玄白は思った瞬間だった。

「よし、とりあえず明日はセッティングする暇あるか?」

「俺は大丈夫」

「俺も〜」

すっかり話の主導は桜宮が握っている。

「宮ヶ瀬湖畔道路使って出すぞ」

「サツの見張りはなんですか?桜宮さん」

「明日は、なんかの式典とやらでぜーんぶ出払うそうだ。」

「おぉぉ!なんだその情報は!さすが桜宮だ!」

「あのなぁーちったぁ高寺や桃野もそーいう情報を持ってきて・・・」

「俺も混ざっていいですか!?桜宮さん!」

「ん?別にかまわねーけど」

「じゃぁいつもの時間よりちょっと早めに集合だな」

「げ、仕事終わったらすぐって感じ?」

「もちろんだ桃野くーん!」

「セッティングになると高寺は張り切るんだよな」







第二章

翌日のいつもより早い時間、続々と喫茶「街」へ集まりはじめる。
四人が揃い、喫茶に入ろうというときに、一台のメルセデスベンツが
高寺のM3CSLの横に止まる。

「おぉ珍客だな」

「久しぶり高寺、新人の話聞いて見にきたよ」




ドイツ車二台が並ぶ前で会話する高寺と見知らぬメルセデスの男

「桃野さん、桃野さん、だれですか?あの人」

「あの人はな、嶋倉さんって言って、サーキットじゃぁ有名な人だよ」

「嶋倉?」

「サーキット仕込みのテクはハンパないんだぜー?」

「へぇ〜」



先に喫茶に入り、待つこと数分、高寺と嶋倉が一緒に入ってくる。

「君が玄白か」

「あ、はい、速そうなベンツですね、重くないんですか?」

「何キロあると思う?」

「1600kgくらいですかね?桃野さん」

「俺に振るのかよ、だが・・・・馬鹿を言うもんじゃねーぞー
嶋倉さんのメルセデスは俺のR32についてこれるからな」

「えぇ!?うそでしょう」

笑いながら玄白は信じようとしない

「よし、なら今からセッティングを出す湖畔道路で一線交えてみるんだ」

「おいおい桜宮、嶋倉といきなり玄白?」

高寺が心配そうに止めようと小声で話す。

「いいんだよ、ちょっと格の違う相手とやらせてみるんだよ」

「・・・・修練か?まぁ・・・こんな奴だけど相手してくれる?」

「任せなよ高寺」

「じゃぁ移動しますかー」

「行くぜ!俺のハチ子ちゃん!」

「ハチ子?なんだそら」

横で意気込む玄白の謎のネーミング

「RX-8のハチ子ちゃんですよ!」




「ハチ子ねぇ・・・」
「いっそハチ公はどうだ?」
「勝負前に余裕だな・・・・」
「はははッ、初めてあったが面白いじゃないか」






『宮ヶ瀬湖畔道路往路スタート地点』

スタート地点は道の駅の前からスタート、一本道をずっと行くと
最終的にT字路がでてくるからそこでターン、そのまま復路に突入
コース把握のために、玄白は桃野の横で一度コースの下見をする。

「大丈夫かな・・・・」

「随分心配するねー?」

嶋倉が不思議そうに高寺に尋ねる

「いやぁね、あいつ、結構そそっかしいとこあんのよ」

「そそっかしい?」

「昨日、あいつの全開走行を後ろから見ててヒヤヒヤしてさぁ」

「あのRX-8はほとんどノーマル?」

「この前、サスとマフラー変えましたー!って意気込んでたな」

「ミニマムチューンだなッ」

横で笑う嶋倉、彼らほど車に金をつぎ込む層からは
マフラーとサス程度ではライトチューンにも入らないらしい

「コース把握しました!」

「お、帰ってきたな、じゃスタート地点についてくれ」

桜宮が玄白に指示する。

「じゃぁ、頼むよ嶋倉」

「任せといてよ」







RX-8とメルセデスの間に立ち、桜宮がカウントを開始する。
指の一本一本を数えて倒して行き
最後に、勢いよく腕を振り下ろす。

二台が威勢よく飛び出し、当然のことながら嶋倉前に出る。

だがそれは玄白も承知、今日の目標はどこまで食いついていけるか
ここ最近、シュヴァルと走るようになってから、基礎的な成長は目覚ましく
たかだか数週間で、玄白は見違えるようにRX-8を走らせるようになっていたが
三人から見ればまだまだで、今日は苦渋をなめさせるつもりで送り出している。




嶋倉はコーナーでは流す程度のペースで走り
まるで重量があるかのようなブレーキングとコーナリングを装う

「これは、ひょっとしたら前に行けるかもしれない!」

数個コーナーを抜けただけで、最近、自信につけあがっている玄白は
簡単にそんな結論に至ってしまう。

「つぎのコーナーをアウトから行く!」

案の定、早めにゆるくブレーキをかける嶋倉のメルセデスに
玄白はレイトブレーキングで並び、アウトから並走
次のコーナーでカウンターアタックを決め、嶋倉の前に躍り出る。

「おぉ、元気いいな、しばらく観察させてもらおうかな」






「大丈夫かな」

「まぁそんな心配しなくても大丈夫だって」

スタート地点では高寺が心配そうにスタート地点から先を眺めている。
それを大丈夫と割り切る桜宮
だが、後々に高寺のいやな予感は的中することになる。

高寺の言う玄白のそそっかしさ、それが今宵の一大事の引き金になろうとは・・・





危なげなく往路も終盤、湖畔道路を攻める玄白、嶋倉は背後にピッタリつく
玄白のそそっかしさは端々にその顔を覗かせている。
シフトミス、ペダルワークミス、それは視線が定まらないことから来るもの
あまりの実力差がもたらす、前走者玄白の後ろへの気になる気持ちが
全体的な歯車を狂わす悪さをしていることに他ならない
また、普通に走ってる嶋倉に比べ、全開ギリギリの玄白には
玄白が自分で勝手にプレッシャーをかけてしまい、その弱さから
冷静さが完全に崩れていっている。
こうなってしまうとリズムを失い、最終的にはどんなにあがいても
速く走ることは不可能で、一度抜かれて冷静さを取り戻さなければ
よくてかなり遅れてのゴール、最悪の場合はクラッシュの危険性を孕んでいる。

「往路終わりか!」

前を走る玄白の横に、ぬっとメルセデスが並ぶ
トンネルを抜けた右コーナーのゆるい下りで、メルセデスが真横に並ぶ

「嘘だろう!?」

車内で不意を突かれた玄白は完全にパニック、ブレーキを入れてしまう
アウトから、空いたインへスパッと切りこみ、右コーナーをクリアし
下り坂をまっすぐ行くとT字路、先に到達した嶋倉が
ジムカーナのような小さく無駄のないターンで復路に突入する。

「くっそぉ!!」

玄白も教わったばかりのサイドターンをまねてみるが
玄白のサイドターンは無駄だらけ、ターンだけでも差が付いてしまう

「くそ!くそ!離されてたまるか!」

アクセル全開で嶋倉の後を追う。




月夜に浮かぶ嶋倉のメルセデス、月明かりがボディを舐めるように写りこみ
メカチューンならではの伸びと、機械的な音が宮ヶ瀬に木霊する。
空気をすくう様に構えたフロントバンパー&リップ、空気を上へ撥ね上げ
ダウンフォース会得をこころみる巨大なリアスポイラー
低く構えた車体に17インチのホイールは完全にDTM(ドイツツリーングカー選手権)
の空気を周囲に感じさせ、コーナーでの速さは異次元
何世代も前の190Eがこれほどのコーナリングを見せるのか
インフォメーションを忠実にドライバーに伝え、無理をしようとしても
車がそれを吸収し、破錠の影すら見せない。
メルセデスがアルファロメオに勝つために投入したエボリューションモデルは
時を経てもなお、その使命を果たそうとする。



玄白は先々にチラチラ見える190Eのテールランプだけを集中して追いかける。
冷静になるどころか、ますますヒートアップし、危なっかしさを孕み
もはや特攻に近いような危なささえ感じる。
嶋倉の絶妙なペース配分で、RX-8をバックミラーに1カット1カット映るように走り
ペースを落として、もう少し大きく写そうという時だった。

「だ!うわっ!」

「・・・ッ!!」

190Eが急ブレーキをかけ、クラクションを大きく鳴らす。
三回長く鳴らすのは問題が発生した合図、スタート地点の三人もその音を聞き
すぐさま何かがあったと判断する。

「桃野!マスターのとこからレッカー借りてきてくれ!」

「もち!」

「高寺!」

「あぁー!やっちゃったよー!あいつ!」

桜宮が指示を飛ばすよりも早く、高寺はM3で走り出し
それにランエボの桜宮が後を追う





M3とランエボが照らした先には横転し
フロントをガードレルに突き刺し鎮座していた。
相当な勢いで土手に乗り上げ跳ねたらしく
右フロントは土だらけ、ひっくり返りそのままガードレールに直行
ロールケージを組んでいなかったため、RX-8は無残にルーフが低くなり
フロントは出てる速度も速度だったために結構なダメージを負っている。

「大丈夫かー!」

「なんとか、怪我は顔の擦り傷だけだ。」

そう嶋倉が答える後ろで、ガードレールにもたれ込み、ひどく俯く玄白
高寺の問いかけにも反応しない

「・・・・・」

そうこうしてるうちに、桃野がレッカー車を運転して、駆けつける。

「あちゃー、割と派手にやったね・・・・」

桃野が驚くのも無理はない

「まぁいい、軽い傷だけで済んだんだ、それでいいとしよう」

高寺がわざと玄白にも聞こえるように明後日の方向を向いて
三人と話す。
転倒したRX-8を起こす四人、レッカー車のウィンチに繋ぎ
徐々に回転させながら、最終的にタイヤが地面に着くように元に戻す。

ドシャン!とRX-8が元に戻り、なにかパーツが色々外れたような
シャラシャラとした音も混ざる。

戻った横では桜宮がガラス片を箒で掃き、桃野と嶋倉がRX-8のエンジンを確かめる。

クシュシュシュシュシュ・・・・

「あー案外イってるな・・・・コレ」

「イっちゃてる?」

「イってますね、衝撃でワリと」

「最近はエンジンもクラッシャブルゾーンに入れるからな・・・無理もないか」

テキパキと作業をこなし、レッカー車にRX-8を載せると
桃野は一足早く、喫茶「街」まで戻る。

「高寺、先に戻るよ」

「おう」

ガラス片の処理をこなした桜宮も帰り、惨事があった現場には高寺と嶋倉、玄白
三人が残り、高寺も帰るために玄白に近寄る。

グスッ・・・グスッ・・・

肩を小刻みに震わせ、鼻をすすり、玄白が泣いている。

「嶋倉、今日は世話かけちゃったな」

「いやいや、構わないって」

「また、今度、暇があったら来てくれ」

「もちろん、玄白君の成長が楽しみだ。」

そう残すと、嶋倉も190Eに乗り込み、黒いメルセデスは闇夜に消えていった。

「玄白、帰ろう」

「・・・・・」

「おら、よっこらせ」

玄白に肩を貸し、M3の助手席に乗り込ませる。

「さ、帰ろう!」

「高寺さん・・・・」

「んー?」

「RX-8・・・もう・・駄目・・・ですか?」

「駄目かどうかは、玄白、お前で判断するんだ。」

「・・・・」

「まぁ、今日はゆっくり休もう、頭の整理が今日のメニューだ。」









喫茶の前にはレッカー車しかなく、荷台にはカバーが掛けられている。
失意の玄白を連れ、喫茶に入ると
マスターがあたたかいココアを淹れてくれ、席に座ると黙って
玄白にココアを差し出す。

「怪我だけで済んでよかった。」

「・・・・」

「マスター、後、頼んでいいかな?」

「はい、お疲れ様でした。」

「じゃぁな、玄白、また明日」

「・・・・・・はい・・・」


そう伝え、高寺が去った喫茶店には静かな空気が流れ
黙って洗い物をするマスターと、ココアを飲む玄白
玄白は次第に一瞬で固まった心が温かくほぐされていく気分
疲れとプレッシャーにショックが一気に襲いかかり
玄白は静かにゆっくりといつかしか眠りについてしまった。








ほがらかな朝日に目を覚ます玄白、コーヒーのいいにおいがし
むくりと起きると、目の前でマスターがコーヒーを淹れている。

「おはようございます。」

「あ・・・・寝ちゃった・・・・」

「よく眠ってましたよ」

「なんか、すいません。。」

「いえいえ、さぁブレックファーストをどうぞ」

目の前にはおいしそうなサンドイッチがおかれ、コーヒーが
横に出てくる。昨夜は夕ご飯を食べ損ねていたため
グゥーっとお腹が鳴る。

「い、いただきます。」

朝日はやさしく静かな時間を照らし、温かい朝ご飯が目を覚まさせる。
言葉は交わされなくても、安心できる時間と自由な朝に
玄白は一抹の不安や恐怖も拭い去られていた。

「コーヒー、おかわりします?」

「あ、はい、お願いします」

しばし、黙々と朝ご飯を食べるが、段々RX-8が気になり始め
コーヒーを飲み干すと、玄白は外に向かおうとする。
マスターはランチの仕込みの手を止め、外に向かう玄白を目で追う
何があっても驚かない、そう固く決め込んだ玄白は
静かに喫茶の扉を開け、朝の空気を深呼吸で吸い込むと
喫茶の横に止められたレッカー車に足を運び
カバーのかかった荷台をジッと見つめる。

「エイト・・・・」

小さく呟くが、ため息や落胆の声ではなかった。

カバーを固定するヒモを解き、アンヴェイルすると
土や草を含んだままのバンパーをぶら下げ
傷まみれの全体、ガラス類はヒビに支配され
フロントは精悍なエイトの顔をとどめていない

ゆがみ、凹んだフェンダーを手でつかみグッと力を入れる
もちろんフェンダーはビクともしない
チョップトップされたようなルーフを眺め
玄白は時間が許す限り、エイトを見つめる。

「結果はこうなってしまった。次はどうする?」

紺色のエプロンで手に残った水気を拭きながら
マスターが横に現れる。

「オレ・・・もっと、もっと上手くなりたいです。」

エイトから一切目を逸らさずに迷いもなくそうかえす。

「どういう風に上手くなりたい?」









「どんな結果になってもそれでよかったと納得できるまで・・・・」








「そうですか。」

マスターもエイトを見ながら、玄白に安心する。
この子は怯えるどころか、さらにスピードを求め
二度目のこういう事態にも毅然と対処できると。

「マスター」

「はて?」

「オレのコーチになってください!」

玄白はジッとマスターの目を見つめ、お辞儀をする。

「コーチ・・・・ですか」

「・・・・ハイッ!」

「いいでしょう、そう答えられたなら」









自分に納得できるまでと―――――。













第三章

「おーおー、随分走りこんでるなー」

喫茶の前で、腕を組み、目の前を行っては帰ってくる
そんなことを繰り返す玄白を見ながら桃野がそうぼやく

「二週間前の事故なんて忘れたような走り込みだな」

同じく隣で眺める桜宮、横では高寺も見物している。

「なかなか、筋がありますよ、玄白君は」

「マスター、あのCD9Aはどこから?」

「知り合いのところから借りてきまして」

目の前をあまり綺麗なボディではない初代ランサーエボリューションが
行ったり来たり、コーナーに入るところでは
たまにブレーキをロックさせてるほど。

「おーおー!おー!?アブねッ!」

高寺は見ていられないようだ、だがマスターは横で笑っている。

「かれこれ二週間、随分と冷静に基本をトレースできるようになりました。」

「マスターって時々すごい練習させるもんなー」

「そうですか?桃野さんは楽しんでたじゃありませんか」

「いや、楽しかったけど、徹底的に走らなきゃいけないから
大変だったこともシッカリ覚えてますって」

どうやらシュヴァルの三人も少なからず世話になっていることがうかがえる。

「曲げにくい一世代目をよく曲げてくなー・・・・」

関心するように桜宮が玄白の運転を眺める。
セオリー通りキッチリ荷重を載せ一定のステア量で曲げていく
タイヤから荷重を抜かず、コーナーを安定させる。
簡単なようで難しい事を先ほどから玄白は
トライエラーで繰り返し繰り返し練習している。

「俺は四駆だけはだめだなー」

桜宮の言葉に返す様に高寺が横でため息をつく

「なんで?」

「なんでって、コーナー入り口で鼻がブレーキで入っていけないのがダメでさ〜」

「電子制御使えばんなもん簡単にできるぞ」

「電子制御じゃだめなんだよー、ナチュラルがいいわけ」

「ナチュラルねー」

「そ、ブレーキで鼻ねじ込んで、アクセルで曲げてく、ラクでいいよ」

「高寺のナビシートはいつか死にそうでイヤだな」

笑いながら桜宮がFR主義の高寺をピンと弾く

「し、死なねーよぉ・・・・」

「スピンするときもあるしな」

「う・・・ま、まぁほらそこらへんはだな」

「エボに乗ってみるか?」

「喜んでお断りします。」

ヤビツ峠には玄白の練習に付き合うランエボのエグゾーストが響く
小さいタイヤインチのため、ブレーキングもお世辞にいいとは言えないが
サイドブレーキを併用し、ブースト圧を保たせ、腕で曲げていく。
二週間、玄白がランエボで培ったコトは二週間前までとは
雲泥の差になり、マスターも予想以上の成長に驚くほど
本来ならリハビリで二週間使うはずが、もう事故前を超えているのである。

「99%のセンスと1%の努力、そんな言葉もありますが、まさかここまで驚異的とは・・・」

「マスター以上に俺達が驚いてますよー」

「同じランエボ育ちになるのかぁー」

「また一人、四駆に人材を奪われていくぅ〜」

四人が練習を見物する駐車場に玄白が戻ってくると
綺麗にクルリと向きを変えて停車する。


「うぉっ!」

高寺がぴょいんとのけ反る。

「サイドターンまで覚えたのかよ・・・・」

エンジンを止めてもターボタイマーがボボボボボボボ・・・・と残業をこなす。

「あ、どうも桜宮さんに高寺さんと桃野さん」

「おーっす」

「おめー轢く気か!」

「轢かれても死なないでしょ?高寺さんは」

「死ぬって!」

桃野におちょくられる高寺に、いつものシュヴァルらしさを感じる玄白
ひたすら走りこんだ玄白に、桜宮が缶ジュースを投げ渡す。

「おつかれさま」

「おっととと、ありがとうございます」

「すげーな、見違えるようだよ」

「いやーまだまだですよ」

「あすの土曜にこの前行ってた米軍チームとの対戦があるんだが
車はないけど一緒にくる?」

「あ、ハイ!」

「じゃぁ、迎えに行くから、マスターんとこの喫茶で待っててよ」

「了解ですッ!」

「ところで今日はどうやって来たの?」

「若い子の味方、50ccバイクですよ」

「なるほど」

「うわ、降ろしてくれ、俺はいやだ―――ッ!」

関心する桜宮の横から、高寺の悲鳴が聞こえる。

「いいじゃないすか!高寺さんも4WDの世界へ!」

「ひぃぃぃ!マスターたすけ、うごぉ!」

桃野がランエボを急発進させ、助手席で高寺が悲鳴を上げている。

「高寺さん、大丈夫かな・・・」

苦笑いで見送る玄白、マスターも笑っている。

「さらば・・・高寺、お前のM3は高く売るよ・・・」

「えぇぇ!すでに亡きもの扱いですか!」

「桃野のナビシートは強烈だからなぁ・・・・・」












「だれか助けてェェェェェェェ!!!うごぇ!」







「わめくなんてワザとらしいっすよー♪高寺さんッ!」







「ギャァァァァァァァァ!!!」



戻ってきてから、高寺が地面にへたれこみ、動かなかったのは
今後、語り草となる・・・・


「ランエボ楽しい!」

「だろっ☆」

(桃野さんも桜宮さんもケッコー残酷だな・・・・)

「パ・・・・パスタ・・・・・」

(グロッキーでも飯のこと想ってるゥ!!!?)












『昼:喫茶「街」前』

「それでは、気をつけて」

「じゃぁ、行ってくるよ」

マスターに見送られ、シュヴァルの三台が合流、一路、集合場所に指定された
米軍基地を目指す。
この二週間、マスターと進められたセッティングで峠に準拠した内容から
大幅に高速域までの許容範囲を広げたセッティングとなり
一番パワーで上をいく桃野を大将とし、桜宮、高寺と順に戦うことになる。
今回は玄白も同行し、初めてのチーム対抗戦というものを最後まで見届けられると同時に
今日、早々にも玄白は転機を迎えることとなるのだ。



「お前、車はどうするんだ?」

移動中の車内で桜宮が玄白に問いかける。

「あのランエボTを買い取るつもりです。」

「Tねぇ・・・・Xとかどうだ?」

無理もない、基本的なコンセプトは変容しないにしても
あまりにも熟成とは程遠いTでは戦闘力比がRX-8よりも
劣る場合が想像に容易い。

「Xですか・・・・」

「一個戻ってWという選択肢もあるけど」

「・・・・Vってまだあるもんですかね?」

「Vかぁ、一世代にこだわりたいと?」

「そんな・・感じですねハイ」

高速時の動きを確認するため、遠回りに高速道路をわざわざ使用して
150km/hほどの動きをそこそこに、オービスに、警察に
その他もろもろに怪しまれないようにと願いつつも
あやしさ全開で二車線を結構な勢いで行ったり来たりしてる三台

「あー迷惑行為極まりないな」

車内でボソッと呟く高寺、なんだか肩身が狭い

が、マスターの施してくれたセッティングの感触は
すこぶる良く、高速域での車の動きがピシッと安定している。
車の鼻っつらのレスポンスをスポイルすることなく
安定感を出す、まさに相反する内容をまとめ上げるその腕に
三人は唸りながら基地へ向かうこと一時間

巨大な飛行機や、フェンス沿いには銃を構えた兵士たちが点々と立っている。
異様な雰囲気を醸し出す基地の周りを走り、指定された場所で停車する。
米軍基地には一般的な立ち入りは禁止されてるため、エスコートの兵士を待つ
数十分すると、正門から一人の軍人が出てきてこちらへツカツカあるってくる。

「お、来たか」

先頭に止まってた桜宮がエボから降り、握手をする。

「ハロー、君たちがシュヴァルベンシュヴァンツかい?」

流暢な日本語で話す軍人、しかしシュヴァルのチーム名を発音する瞬間
あまりに流暢過ぎて聞くに聞き取れない

「日本語話せるんですね」

「えぇ、多少は」

「私は桜宮、よろしく」

「ジェイソン、ジェイソン・フィアデルだ。」

「今日の内容は?」

「まぁまぁ落ち着け、まずは基地に入ってからだ、僕の後に車を続けてくれ」

そう言うと、ジェイソンは正門の前に向かって歩きだし
玄白を含めた四人のことを代理申請しているようだ。

正門に車を並べると、IDカードが配られる

「これを常に首から下げててくれ、今日はオープンベースじゃないんでね」

丁寧に四人にそれぞれ配ると、次の指示がなされる。

「ここに車を並べてくれ、一応チェックが入る、簡単だ安心してくれ」

二、三人の兵士が止めたエボ、R32、M3の周りを一回りし

「Plese, open the trunk and bonnet」

「え、なに?」

高寺がポカーンとする。

「トランクとボンネット開けてだってさ」

桜宮が指示を和約し高寺に伝える、桃野も真似するように桜宮に続く

「高寺、英語関係の大学出てんだろー?」

「いやぁー英語はさっぱり社会学ばっかやって遊んでたからなぁ」

「なんだそれ」

「plese, step out of a car」

次の指示に従い、今度は車内のチェックに移る

「oh...It's very cool」

桃野のR32を見ていた一人の兵士が思わず感想を漏らす。

「君の車、かっこいいってさ」

ジェイソンが桃野に寄り、その感想を日本語で伝達する。

「ど、ども」

「thank you this is really a cool GT-R. Today's my lucky day.」

ニコッとそう伝え、桃野に握手して基地入場OKのサインをする兵士

「オーバーだな、マイケルはGT-Rが見れて今日はラッキーだ、だって」

「やぁ、それほどでもォ」

一方、桜宮と高寺の車を見ている兵士は別段興味があるわけでもなさそうで
淡々とチェックを済ませると、サインをし、晴れて四人は基地へと入る。
当然ボディチェックもされたが、別段危険なものは持ち合わせていないので
問題なく通る。

チェックを終え、歩き出すジェイソンに高寺が一生懸命頭をひねり
英語で話しかける。

「Will you walk, or go by M3?」

「いいのかい?」

「of course」

「じゃぁ、乗せてもらおうかな」

国籍の違う二人が互いの母国語をクロスさせ使う、むしろ高寺は
内心間違っていないがドキドキだったが、通じたようだ。
しかし、ずいぶん丁寧な表現である。

ジェイソンを乗せ、指定されたパドック前に到着すると
そこには映画「ワイルドスピード」に出てくるようなカスタムカーや
ドラッグレーサーの様なアメ車まで、それぞれ二十台近くがゴロゴロしている。

一見地味なシュヴァルの三台だが、周りにすぐギャラリーがあつまってきて
エンジンを見せてくれや、足回りを見せてくれなど
やはりの日本のチューニングカーというのは彼らアメリカ人からも
一目おかれる存在のようだ。

「さて、今日のレースの説明だ。
今日はオープンベースフェスティバル一週間前でちょっと僕らは自由に
滑走路の一部分を使える、そこで、高速バトンリレーをする。」

「ジムカーナーとは違う?」

「順路は一直線で行きはテクニカルな順路を帰りは一直線だからね」

「なるほど、100km/h級のパイロンスラロームもあるってわけだ」

「その通りだ」

「今日は三対三のリレーバトルってことでいいんだね?」

「君たちの人数に合わせるのが当然だろう、メンバーを紹介しよう」

ジェイソンが兵士たちの中から二人を呼び寄せる。

「トムとボブだ。」

「トム・グレンコートです。よろしくおねがいシマス」

「こいつはつい最近、日本に来たばっかだがドラテクはピカイチだ」

「hahahaha, it was a cinch! Let anyone come. It'S me they've got to deal with!」
(ハハハ、楽勝さ!誰が相手でもかかってきやがれ!)

「見ての通り、ボブは大口叩きだが、案外そうでもない、油断しない方がいいぞ」

紹介を終えると、次は車を前に引っ張り出してくるジェイソン
そのV8やV10サウンドは圧巻の一言で、聞く者を震わせるような
エグゾーストを響かせながら、シュヴァルの三台の前に対峙するように止める。

「これが、私たちの愛車だ。」

右からジェイソンのバイパー、トムのマスタングGT、ボブの2ndカマロ
中でもジェイソンのバイパーは強烈なモデルで
アメリカ本国でコンプリーチューンを手掛けるヘネシー社のヴェノム1000ツインターボというもので
実際に1000ps出ているモノである。

「私のバイパーは日本では数台しか入ってきていない特別なバイパーだ。」

その強烈なスペックにたじろぎそうになるが、桃野が上手く切り返す

「すごいね、だけど俺も日本では数人の特別なR乗りさ」

ヘネシーの変わったエアロに玄白が興味津津に見つめ
その実力を走らずともジリジリと感じ取る。

「桜宮さん、相当すごいですよこのバイパー」

「大丈夫、1000psも踏めなきゃ意味ないからな」

「馬力差は倍違う・・・・テクニカルセクションでどれだけ稼ぐかだな」

「高寺さん・・・・高寺さんめちゃくちゃ不利じゃないですか」

「レスポンスって武器があるんだよ、この六台の中じゃM3が一番だ。」

「秘密兵器がある、俺のRは簡単に負けねーのよ」

「桃野さん・・・・がんばってくださいよ、俺、信じてます。」













「Gentlemen start your engines!」

スタートフラッグを持った兵士が、並んだボブと高寺の間に立つ

「Do waht you can anyway.」
  (せいぜい頑張れよ)

「Let's see which of us'll win」
(どっちが勝つか、やってみようじゃないか)

案外、大学でやったこと覚えてるなぁと大学生活に思いを耽る高寺
だがその回想を吹き飛ばす様にカウントが始まる。
ボブは自慢のカマロでバーンナウトを始め、M3ごと煙に包まれる。

「all ready?」

一気にヒートアップするスタート地点、観衆の盛り上がりが最高潮に
達したその時、勢いよくフラッグが振り降ろされる

「goodruck!」

けたたましいスキール音と共に二台が飛び出し、煙が二台の走りだした
方向へと引っ張られ、煙が風で流れるころには、二台は最初の一コーナーに進入
ライン取りの上では、スタートダッシュを決めたボブが
イン側を占め、十個も連続するきついヘヤピンをブロックしつつクリアする。
最初のヘヤピンさえ頭で抜ければ、後は引き離せる。
そういう魂胆のボブは、ヘヤピンを終え、そのパワーでさらに差を広げようと
するが、緩めの中速コーナー達でM3がピタリと付いてくる。

「バーンナウトなんかするからケツがズルズル、いやジュルジュルじゃないか」

高寺がぼやく様に、カマロはコーナー出口が安定しない
飛行場の高いμの路面でも安定したいないのはよっぽど油断していたようである。

ひらがなの「す」を上からなぞるような一回転のコーナーでカマロは大胆に
ドリフトをかましながら抜けていく、M3は小さくインベタで出口重視のライン取り
続く高速スラロームも、ボブの後ろで我慢の高寺
しかし、ここで離されないように走るのが重要で、自分のリズムを持ち
全開の一歩手前のペースでボブに合わせるのではなく
距離を詰めない自分のペースで後をひたすらに追う

飛行場のそのまま右へそれ、滑走路を大きく回るようにゆるく大きな左カーブを描く

「奮発してパイロットスポーツ入れただけあって踏んでいける!」

回り込む左カーブでアクセルを開けきれない上に、やや外側へ膨らむボブ
そんなボブを尻目に、高寺がインを刺して行き、コーナーで抜き去る

「Shit!!!」

Rの長いコーナーを抜けると、2kmに及ぶストレートでスタート地点であり
ゴール地点の場所に戻る。

最初にコーナーを抜けたのは高寺、しかし、ここからパワーの差を
まざまざと見せつけられるのは周知の事実、高寺もそれを理解したうえで
全開フルスロットルでM3を加速させる。
重量を落としきれないSMGUを承知の上で積んだままの高寺のM3CSL
シフトアップの速さは人間業では及ばない速さで、パワーロスを最小に
持てる馬力をフルに発揮する。
マスターのはじき出したセッティングが高速域での安定感に寄与し
200km/hを易々と超えるが、その先から辛くなる。
矢先、すでにボブのカマロが横をスルスル抜けていく



「戻ってくる!」

「エボの力をみせてやる」

桃野と桜宮が高寺の一本目終了を今か今かと待つ。

先にゴール地点を通過するボブのカマロ、地点通過最高速度は270km/h
だがその270km/hまでの到達の速さは700psのなし得る仕事だろう
だが、コーナーで稼いだマージンもありすぐに高寺も計測地点通過
速度は246km/h
ボブからバトンタッチしたトムのマスタングがすぐに出ていく
今回のレースはメンバーがゴールした瞬間に飛び出す形式
またこちらも700psオーバーのマスタングで、こちらは最新型ベース

すぐさまゴールした高寺のバトンタッチを受けて、桜宮もスタートする。
スタート100mでの加速は桜宮が上回る。
ランエボのトラクションにモノを言わせ、最初の連続ヘヤピンで一気にスタートの
遅れを挽回する桜宮
細かい最初の十個連続のヘヤピンをスパスパ斬り捨て、マスタングの尻を目の前に収める。

二本目はルートが少々変わり、360°ターンを指定されたゾーンがあり
事故を防ぐために空間が二つ作られ、先行が好きな方を選び、サブロクターンをする。

トムが先にエリアに進入し、ブレーキングで荷重を前にドシンッと乗せると
綺麗にパワースライドで枠ギリギリに収める。
高μの滑走路でこれだけパワーで押し切るとはさすがで
対する桜宮は進入前にエボにフェイントをかけ、サイドブレーキでキッカケを
作ると、そのまま綺麗にまとめたサブロクターンを駆使するが
いかせんパワーで押し切ったマスタングの方が早い

次は先ほどと同じパイロンスラローム

「ここで行く!」

長いパイロン区間で、キッチリとセオリーに従った処理で
驚きの速さでパイロンを処理する桜宮
ランエボの高トラクションとトルクフルなエンジンが一気に生きる場所だ。
トムとは逆の位置からスラロームを始めた桜宮が、マスタングをまたもや捕捉し
完全に遠くから見れば重なるぐらい背後でスラロームする。
スタート地点からはどよめきにも似た声が上がり、ヒートアップは止まらない

「やるね、ランサーボーイ」

スタート地点で待つジェイソンが横に並ぶ桃野に感想を送る。

「関心してる余裕はないですよ?」

「hahaha、そうか!君にも要注意だったな!」




そして直線に向かうために大きく回る左コーナーで
あまりにランエボを追うあまり、限界を超えたマスタングが
ハーフスピンを喫してしまうが、すぐさまリカバリーするトム
さすがはジェイソンが見込むだけあり、突然のトラブルにも涼しい顔で対処
こういったところでは軍人の冷静さが光る。

「大した、差にならないか!」

だが、ハーフスピンはハーフスピン、安全圏のマージンを持って
桜宮は2kmの直線を消化する。
速度計測通過地点での最高速度は239km/h、少々遅れて通過するトムが
268km/hということを考えれば、桜宮の得たリードが一気に桃野の負担を取り払い
桃野は安心と勝利への野心を持ってスタートする。

約500ps近い桃野は、先の二人以上に速い速度で最初の100mを通過
桃野がヘヤピンに入る直前、トムがゴールし、ジェイソンが満を持して
スタートダッシュを決める、1000psの咆哮が空気を揺らし、尋常じゃない加速を
周囲に披露する。

「なんつー馬力だ・・・・」

「ヘネシー・・・ヴェノム・・・・」

息をのむ玄白と高寺、横では桜宮が一気にアクエリアスを飲み干す。

ヘヤピンをテンポ良くクリアする桃野、だがジェイソンのヘネシー・バイパーも
1000psとは考えずらいほど先の二台よりも洗練したヘヤピン処理を重ね
差は広がらず詰まらずこう着、緩い中高速でも差は詰まらないが広がらない
一本目、高寺がとった作戦のようにジェイソンも自分のペースで後は
最後のストレートで巻き返す魂胆だということだ。

「The fastest tougher one wins.」
    (速い者が勝つ)

そう車内でポツリと呟くジェイソン、今度は一本目と同じ「す」を描く
円周が指定され、難なくこなす桃野、ジェイソンのバイパーも円周一個分遅れて追う
だがその先が今度は違う、パイロンスラロームの前にクランクの連続ゾーンが
設けられ、そのクランクゾーンに挑む桃野、ヘヤピンとは違い
また違ったアプローチが強いられるクランクの連続、まるでアルファロメオの
人を食らう蛇(竜)のうねりをコチコチの角形に固めたような、難しいクランクを
いとも簡単にクリアしていく桃野とジェイソン、その集中力は尋常ではなく
その緊迫する空気は、ヒートアップしていたスタート地点を黙らせ
蜃気楼に揺らぐ、二台を見つめる兵士たち。
管制塔からも数人、双眼鏡でコーヒー片手にこの驚異の対決を見る者まで現れる。

アルファロメオシケインを抜け、高速スラローム、ここでもバイパーは
常軌を逸するスピードで迫ってくる。
車内で桃野はチラリとバックミラーを見てしまう。

「ッ!!見るんじゃなかった!」

まるで毒蛇が獲物に襲いかかるように鎌首をあげる様を思い描いてしまう

だが、桃野も伊達に車を走らせてきただけじゃない、深呼吸し
前をキッと見つめると、より一層、丁寧にスラロームを抜け
右コーナーをRのトラクションを生かし、ハッキネンの様な
ギリギリのアウトインアウトで抜ける。
今度は高μの路面が桃野に味方し、通常よりもオーバースピードのコーナリングを
許容し、限界は高い、とGT-Rを信じ、最終ターンのRの大きい左コーナーを残すのみ
最高のライン取りで、最高の走りで、最高のポジションで走る左コーナー
もう勝利は目前、だが、バイパーとの距離は如何とも安心を妨げる。

コーナーをアウトギリギリ出口重視で抜けると、RB26DETTに鞭を打つ
フルスロットルで、2kmを抜け始めた矢先、すでにバイパーも加速体制に入る。
その1000psの咆哮はRB26DETTの咆哮を易々覆い被し、異常な加速でGT-Rの追撃を目論む

「やっぱり使うか!」

桃野は、新調したステアリングに増設された赤いボタンを押す。

[Go puppy]

そう記されたボタンを押したとたん、R32のマフラーから出るエグゾーストに
違った加速感が混ざり、1000psにモノを言わせ、迫るバイパーの差を最小限に抑える!

「what!?」

差が急に縮まりづらくなったジェイソンは違和感を覚える。

「None of your impudence! If I lose to the likes of 500powers GT-R!!!!」
    (小癪な!500馬力のGT-Rに負けてなるものかぁぁぁ!)

ナイトロを使っても、迫るジェイソンのヘネシーバイパー
速度計測地点では共に250km/hオーバー
桃野もジェイソンもフルスロットルで加速するがそれと同時に
ゴールは異様な速度でこちらへすっ飛んでくる。

「Beat it!」

「run away!」

「dangerous!!」

あまりの速度にスタート&ゴール地点から逃げる兵士たち

「俺たちも逃げろ!」

桜宮がゴール地点から高寺と玄白を引き連れて距離をとる。

血液がすべて背中に押しつけられそうな、終わらない加速感の中
バイパーはもうR32の背後に完全にとらえ、脇に並ぶ!













旗が振られた、惰性で急ブレーキはかけずにゴール地点から流す
二台、大きく滑走路を回ってくる二台


「どっちだ!」

高寺が声を張り上げる。

こちらへ向かってくる二台、R32のウィンドウから桃野の腕が上がり
パッシングするR32、まさしく凱旋帰国の様相で、玄白たちは飛び上がる

「やりやがったー!!!」

「勝ったぞ!」

「お、お、お、わー!!!」

何を言っていいかわからない玄白、とりあえず喜ぶと同時に
周りから屈強な兵士たちが集まってきて、自然発生的に
帰ってきたR32を取り囲み大騒ぎ

「まいったよ、ミスター桃野、私たちの完敗だ。」

兵士の人込みをかき分け、ジェイソンが桃野の手を固く握手する。

「サンキュー!」

「違う違う、thank youだよ」

「・・・thank you!」

「Verygood!」

「やりましたね!桃野さん!」

玄白も兵士たちに負けじとかき分け、桃野の前に出る。

「サイッコーでしたよ!最後のゴールなんて!」

余韻冷めあらぬなか、兵士たちはジェイソン達を倒した三台のシュヴァルズマシンを夢中に見て回り
そのポテンシャルの高さや、サービス精神旺盛な桃野と高寺による
同乗試乗なども行われ、兵士たちからもすっかり気に入られたシュヴァルズ

「まいったね、君のところのエースはファンタスティックだね」

「いやいや、ジェイソンのチームメイトも強烈だったよ」

「そういえば、兵士たちとエンジョイしてるあのボーイは?」

「あいつは玄白、最近頭角を現してるルーキーなんだ。」

桜宮とジェイソンの会話から、玄白にとって今日一番のイベントが
始まろうとしていた。











「そうだ、ミスター桜宮、今から車が賞品のジムカーナ大会があるんだけど、どうだい?」

「車?」

「そう、毎年、オープンベース前の準備中に私たちで開くジムカーナ大会で優勝すれば、車が手に入る。」

「そんな金どこから」

笑いながら疑問に思う桜宮にジェイソンが答える

「まぁ、あれだ日本政府がくれる思いやり予算から雑費として支払われる」

「お、お、俺たちの税金だよ・・・ジェイソン・・・・」

「sorry sorry だとすれば、今回は君たちの手で還元するチャンスというわけさ」

「還元ねぇ・・・・」

「どうだい?」

「おーい玄白」

兵士たちと最早、わけのわからない日本語英語で盛り上がる玄白に
桜宮が一つの提案をする。

「なんですかー!?」

遠くから玄白の提案を尋ねる返事

「車が掛ったジムカーナに出てこい」

「ジジジ、ジムカーナ?」

兵士たちの山から抜けて、桜宮のところに駆け寄る玄白
駆け寄った玄白にジェイソンがポンッと肩を叩き

「ルーキーなんだろ?俺たちのジムカーナで君の走りを見せてくれよ」

「もう、エントリーシートに名前書いたから」

「えー!ちょ、ジムカーナなんて無理無理!」

「Take it easy!!初めてでも構わないよ」

「で、玄白、使う車はあれらしい」

桜宮の指さす方向には、競技車両らしきものは一台も見当たらない
装甲車が陳列されているだけ

「車なんてないですよ桜宮さん」

「あれだって、あれ」

「あれ?」

「そうさ、あれ」

「あれ・・・・ってハマーじゃないですか」

「ハマーだがあれはオリジナルだからハンヴィーだな」

「ハンヴィー!民間人にそんなん乗せていいんですか!」

驚きと同時に一気に気が引ける、一般車やチューニングカーとは
ワケの違う、米軍の足ともいえるハンヴィー、そんな車で
ジムカーナをしようというのだから、玄白がしり込みするのも
当然の反応だが、ジェイソンは横で笑い、いたって当たり前のようだ

「Don't worry 免許取得間もない奴でも運転できるくらい、ハンヴィーはフレンドリーなヤツさ」

「え・・・・」

「ランエボTと大して変わんないから平気平気」

「変わりますよ!すっげー変わりますよ!」

「そか?重さが2.3tあるってことくらい、4WDでトルクフルで変わらないって」

「いやいやいや、重さがハンパないですよ!」

「ま、取りえずジムカーナはそろそろ始まるから、こっちへ来てくれ」

「さぁ、きばってこー」

「え、これホントに・・・・・?」





同じ仕様のハンヴィーが五台ばかり並べられ、順に続々とスタートがきられ
正しくは2.34tもの巨体が振り回されている。
オートマチックということもあり、かなり車体を揺さぶって姿勢変化を
作り出すのには骨が折れそうで、一歩間違えれば転がりそうな印象を受ける。
強力であろうサイドブレーキを駆使して振り回す米兵達
2mを超える横幅から振り回すのはそう簡単ではなく、かなり大きくフェイトをかまし
それと同時に荷重を前に飛ばし、サイドブレーキを引き上げる。
向きさえ変われば、後はその強力な60kg-m近いトルクで車体を弾く
1700rpmから発揮される最大トルクは、完全にアクセルをリリースしても
そのロスを全く感じさせない回復の速さで、こんな巨体のジムカーナを
見たことも聞いたこともない四人はただただ見つめるだけ

「すっげ・・・・」

「あれでオートマだってよ・・・・」

「やることの規模が違うな・・・・」

「今からあれ乗るの・・・・・?」

十五人程度が走り終わり、スコアボードにどんどんタイムが刻まれ
トップ通過は54秒43、最後のランナーである玄白が
このタイムを超えれば、彼らが用意した賞品は玄白のものになる。

「さ、ルーキー、君の出番だぞ」

「え?」

「大丈夫、最初に操作系をレクチャーしよう」


なされるがままに、ハンヴィーに乗り込まされ
ジェイソンから操作系の説明が入る、シフトはココ、サイドブレーキはココ
どうやらルールでギアの故意のチェンジは封じられてるらしい
車幅に関する簡単な話を聞き、早々にエンジンスタートをさせられる。

「あとは君のテクニック次第だ、ルーキー!」

親指を立てて、ウィンクするジェイソン、よくあるハリウッド映画のワンシーンを思い出すカンジ

(ハンヴィー・・・・でけぇ・・・・)

それもそうで、全長4.84m、車幅2.16m、全高1.87mもあるディメンション
助手席は遠く、コックピットに孤立感があり、まさしく部屋
センターコンソールには意味のわからない計器が並び
とりあえず触れるのは避ける。

「やるしかないか・・・・」

スタート地点まで動かすのに改めてハンヴィーのアクセルを踏み
移動をしてみる。
軽く踏むだけでも2.3tの車体がスルスル動き、重苦しさは
この領域なら全くない、ただそれが全開域になるとどうか。

「Are you ready?」

「イ、イエスッ!」

スターターが時計とポーズを構えスタートカウントを始める。

「頼むぞ、俺はお前を信じる。」

ハンヴィーのステアリングをなでながら、スタートに備える玄白
やるからにはトップを狙う、事故以来、自分の腕でどうなっても
満足できるまで、結果や状況より自分が満足するか
玄白はスターターがスタートを切ると、ハンヴィーのアクセルを床まで踏みつける。

(なんつートルクッ!)

アクセルベタ踏み、最初のパイロンに向かって猛然と加速する。
最初からコースの流れは見ていたため、レコードラインをイメージトレースした通り
進入を試してみる。

(おらっ!)

見よう見まねで荷重を前に押しのけ、車体を振ってみると
車体は深く沈み、そこで一定に荷重を乗せ、最初のパイロンをパスする。
さすがに車の特性上、グルリとパイロンの周りを回るコースは設定されていないが
Uターンを指定するような部分もあり、そういった場面では積極的に
サイドブレーキを使っていく。

「曲がらないようで曲がる・・・?」

自然と次のパイロンまでもフルスロットル、加速だけは相も変わらず凄まじい
フルブレーキングでサイドブレーキを併用し、リアをブレークさせようと試みる
思いっきり振りかかり、姿勢を突き出してもほんの少しリアが滑るというより
少しの角度だけスライドし、すぐ終息。そのままステアをいきたい方向に
切った状態で向きを整えフルアクセル、米兵達はトルクステアと
奮闘しながら走っているようだが、玄白は自然にランエボで練習を積んでいた
時のように、アクセルワークで見事調整していく

「よーしよし!いい子だ!」

次々とパイロンとパイロンを結ぶラインを綺麗になめ
そのトルクにゆだねハンヴィーを弾いていく。
ドカンッというより、大排気量NA特有のモリモリした加速で
案外レスポンスも悪くなく、終盤にはハンヴィーをかなりのスピードで
かなりのツッコミで振り回す玄白、屈強な米兵達より
車と一体化した動きを見せるのは、シビリアンとソルジャーの違いか
車をねじ伏せようとする米兵達に比べ、どこか滑らかな印象だが
逆を返せば迫力は薄い、しかし迫力が速さに比例しないのは
今日のモータースポーツで散見されることでもあり、別段劣ってるわけではない





「なかなかいい動きをするなルーキー」

「なんで?今日はじめてだろ玄白」

玄白の筋の良さに感心するジェイソン、横で不思議がる桃野

「さぁ?ランエボとそんなに似てるのかな?」

「ま、まさかぁ・・・」





V8ディーゼルがゴォォっと唸りながら、強烈なトルクで
パイロンの間を行ったり来たりする姿も
なんだかこの期に及んでしまうと、普通にすら思えてくる。

(ロールもするけど、幅のおかげで全然怖くない!)

さらに、過激に、ギリギリまでラインを絞り
タイムアップのラストスパートを図る玄白
ハンビーの姿勢変化の度合いが凄まじく
すでに玄白を応援する者もあらわれ、次第にギャラリーの中から
ルーキーコールが始まり、盛り上がりを見せるスペクテイター

「Go!!go!!rookie!!」

「yes!!yes!!」

「eccentrical!!!!」

思い切りのいいサイドターンや、豪快なフェイント
玄白の一挙手一投足にギャラリーも増え
いつしか、ジェイソン達だけでやっていたジムカーナには
たくさんのギャラリーが詰めかけ、しまいには
かなりの高官まで混ざっている始末
彼ら軍人は小さい楽しみを大きな楽しみに変えるのが得意らしく
オープンベース前の準備中ともあり、もう祭り気分一色だ。
普段なら絶対あり得ないであろう光景が米軍キャンプに起こっている。






カチッ!

コントロールラインを通過した玄白のハンビー
周囲がそのタイムに注目する。

優勝ラインは54秒43、息をのむ桃野、もう見てらんない高寺、勝利を確信した桜宮











「参ったな、今年の優勝はルーキーだ!」










喜びの叫びが一気に周囲にはじけ、拍手喝采の渦
様々な所属の兵士が入り乱れ、玄白を胴上げする。
タイムは53秒11、なんと優勝ラインを1秒も上回る記録
潔く誰も玄白の勝利に文句をつけず、彼らは玄白を祝福する。
それぞれに玄白に握手を迫るギャラリー達
なんと若い女性兵士からのキスまで貰い、もうなにがなんだか
ワケのわからない玄白に、ジェイソンがキーボックスを差し出す。

「さ、ルーキー、君が勝ちとった戦利品だ」

「あ、ありがとうございます!」

「さ、みんな!道をあけてくれ!」

玄白に集るギャラリーがどいた先に、夢の様な現実が待っていた。
丸くラインの破錠の見当たらないボディ
柔和そうでレーシーな雰囲気も持ち合わせ
パパイヤオレンジに塗られたそれは、一目で玄白を虜にした。

「賞品はアウディTT3.2クワトロ、これが君のものになった。」

「うっそ・・・・・」

「本当さ!」

静かにTTのボディをなでる玄白、未だに夢か現実か信じられない

「すっげーじゃんかよコノー!」

「あでででで!!!!」

桃野が玄白にコブラツイストを掛かける、しかもクリティカルロック

「夢じゃないことわがりだだだだだ!!!」






「なんか、すまないなジェイソン」

「いやいや、勝者持ち帰るルールー、誰も異論はないさ」

「是非、こんどヤビツに来てくれよ、俺たちが今度はもてなすよ」

「本当かい?アイスクリームを用意しておいてくれよ」

「任せなよ、とっておきのアイスを用意させてもらうよ!」

「ミスター桜宮、このルーキーは伸びるよ」

「ジェイソンが言うならそうだろうな!」






「玄白、早速明日は陸運局まで行って名義変更だ。」

「ハイ!」

「ずっとYナンバーで乗るわけ行かないからな」

「あ、ホントだYナンだ!」

「なんだー?それともこのまま税金浮かせてYナンで行くかー?」

「やめてくださいよー高寺さん」

「ほら、ちゃんとジェイソンに礼行って来い」

背中を押され、玄白がジェイソンの前に押し出される。



「サ、サンキューベリーマッチ!」

「Please don't mention it.」

握手を交わす玄白とジェイソン、これを持ってジムカーナおよび
オープンベース前哨祭は終了
おしまれつつも、シュヴァルの一行はジェイソン達に今一度
深々と礼を申して、米軍キャンプを後にした帰り道、いつもの三台にもう一台が加わり
いつもより桃野、桜宮、高寺も嬉しげであった。





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