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ヤビシュメ始まるよー

ヤビツ峠のメッサーシュミット

リメイク順調、2ページ目

	
第四章

玄白達が米軍チームとの交流戦後のとある昼下がり

『横浜:高級住宅地』

「お嬢様、苑森様と松籠様がお見えです。」

初老の執事が、紅茶をテラスで飲む年の頃なら高校を卒業したあたりだろうか
紫色のジャケットをはおったそのお嬢様とやらに、来客の旨を伝える。

「もちろん、通して」

「はっ」

巨大な豪邸の門が電動で開門すると、紫色のR33と濃紺のF355
やはり、それ系統なのか、エグゾーストは一般的じゃない

玄関前には噴水を回るようにロータリーが設けられ
玄関前にR33とF355が停車する。

「お姉様!」

「もー、キキョウちゃん、そう呼ばずに苑森でいいって・・・・」

「だめですよー、私のお姉様はお姉様なんです!」

「こんにちは、キキョウちゃん」

「こんにちは、松籠さん」

「っと、キキョウちゃん、来週の夜に遠征、大丈夫?」

「はいっ!もちろんです!」

「今回のターゲットはこの車よ」

松籠がミニノートPCでカタカタッと写真が載ったウェブページを呼び出し
それをキキョウに見せる。

「来週の遠征先はヤビツ峠、私の生まれ故郷よ」

「ヤビツ峠?」

「そこで名を上げているのが、シュヴァルベンシュヴァンツおよび」

「シュバッバ・・・」

「赤城 玄白、所属チームは無いけれど、シュヴァルと一緒に行動しているわ」

「車種は?」

「噂ではランエボT、つい昨日、米軍のチームを破ったばかりね」

「米軍っていうと、シャーマンシーサイドズ?」

「そう、首都高でも最強の一派、私たちでさえ、困難に感じる相手よ」

「それを、たかだか、一端の峠チームが破ったワケ」

ノートPCを閉じ、松籠が補足する。

「リーダーの桜宮、搭乗車種は三菱ランサーエボリューション[MR」

「ランエボ・・・・」

「エースが桃野、搭乗車種はニスモスカイラインGT-R S-tune」

「R32・・・・峠チームとしては重量級ですね」

「そして・・・・BMW M3CSLに搭乗するのが、私達の先輩、高寺先輩」

「先輩?」

「私と凛子の中学時代の先輩」

「そ、雪乃の部活の先輩よ」

「とりあえず、そのシュヴァルベンシュヴァンツにコンタクトを取る
それが今度の遠征の理由」

ピシャリと決まった服装で、来週の予定をキキョウという令嬢に説明する女性
令嬢であるキキョウを合わせた三人のチームは
首都高を主なテリトリーとする「紫式部」書いてその通りには読まず
巷では「パープルタイプクラブ」そう英直訳読みされている。
構成は混成チーム、シュヴァルやジパングGTらより
全体的なバランスが取れており、ストリート出身の苑森
サーキット育ちの松籠、クラブレーサーとして名を持っているキキョウ
その一発の速さの質が高い苑森が率いるチームは
首都高でもかなりの実力を誇るチームである。












「さぁ、まずこんなとこでしょう」

マスターがノートPC片手に、燃調マッピングを書き換え
一般ユースから、少しマージンを削り、走りへのエネルギーを大きくする。
ボンネットを閉めると、マッピング以外はフルノーマルのアウディで
玄白とマスターは真昼間のヤビツ峠を軽く、流しに行く

「昼間は対向車が割と多いから、自転車なども結構いるから気をつけて、
この空白の時間一本で、少し変化を味わってみて。」

「はいッ」

助手席にマスターを携え、空白の時間になったヤビツ峠を
緩く、TT3.2の一挙手一投足を確認するように
また、前方の状態が把握でき、クリアな場合は八割に一瞬だけ
ペースを引き上げる。
練習で積み重ねたランエボTの動きと比べると、一癖も二癖も重く感じ
加速も当然ランエボに劣る。
しかし、コーナーリング中の安定感や、剛性感、全体的な安心感は
むしろTT3.2の方が新しいことや設計思想が新しいこともあり
精神的な負担はだいぶ軽減される。
だが、如何せんちょうど1.5tの車重は軽いとは言えない部類
S-Lineではなく海外仕様の3ペダルMTということで
重量は2ペダルMT仕様より軽い事には軽いが
それも精々40kgほど、絶対的な軽さとはなっていない

ステアリングを切りながら、嵩んでいる車重と格闘する玄白に軽量化を提案する。

「軽量化が必要かなー・・・」

マスターがそう口火を切る

「軽量化ですか?」

「必要・・・かもしれない、なにせ重さだけは峠ではどうにもこうにも働かない」

「軽量化ナシで行くってことはできませんか?」

「限界は高くでないよ?」

「そうですか・・・」

「でもこのまま行ってみるのもアリと言えばありだね、すべては玄白君、君次第だ」

新緑の爽やかな山中をオレンジ色のTTが走る姿は
さながら宣伝のようで、3.2リッターのエンジンが奏でる
NAならではの伸びやかな快音が、ヤビツ峠に反響する。
今日、この得られた感覚とデータを元に、マスターがひとしきりの
チューンを考案することと、玄白はいち早くTTに慣れること
前例のないTTで峠に君臨しようという試み
違った意味で、玄白とTTの組み合わせは噂で広がっていくことなる。


バス停のロータリーで引き返す頃にはクリアな時間帯からは外れてしまい
行きかう湧水客や、自転車のコンペティションともいえる
ロードレーサー達と混ざりながら、ヤビツ峠を引き返すと
改めて、ここは公道、公共の道路ということを窺い知ることができる。


長めの昼休みを終わりにし、マスターは店を開けなければならない
一応、宮ヶ瀬のメインストリートに面してはいるので
開ければ開けたで、集客は割とある。

喫茶の陰にTTを止め、店に入り、即、下準備に取りかかるマスター

「マスター、何か手伝うことありませんか?」

と、言ったそばからモップを握っている玄白

「おや、助かるよ」

「任せて下さい、これくらいッ!」

テーブル拭きや、カウンター拭きに玄白も加勢する横で
もう店内での人影を見かけたのか、ハイキング客らの一行が、喫茶のドアを叩く

「開いてますかー?」

「えぇ、開いてますよ」

テーブル席で数人の中年男女が重い荷物を降ろし、やれやれと
一息をついている。
玄白はマスターに頼まれた通り、お冷と手拭きを渡し
臨時的にウェイターとして、しばらく昼下がりの喫茶を手伝う
なぜか今日はお客が頻繁に入り、マスターも忙しげにコーヒーを淹れる。

三時頃となり、一通り客の出入りが落ち着くと、やっと玄白もマスターも
ゆっくりとする時間が訪れる。

「お疲れ様、さぁおあがりなさい」

「あ、どもです。」

カウンターで一休憩する玄白にマスターがアイスミルクティーを淹れてくれる。

「結構、人来るんですね」

「結構?」

「あ、いや、すいませんッ、この時間に居たこと無くって・・・・」

「はっはっはっ、いや、久々だったよ、こんなに人が出入りしたのは」

慌てふためく玄白よそに、突然マスターが耳を澄ませる。

「どうしたんですか?」

マスターが喫茶のドアを開けて外の風景を取り入れると
そこに、一台の古い旧車も旧車が滑りこんでくる。
思わずマスターの後ろから、その得体のしれない
小さい旧車を目の当たりにする玄白

「久しぶりだな、徹三!」

「よしてくれ、僕は徹三なんて名前じゃないんだから」

笑いながら旧車から降りてきたのはなんと外人
青い目に金髪、ブロンドがかった髭を蓄えた
マスターと同い年だろう、欧州系の外人が現れた。

「またトラビを買ったのかい?」

「まぁな、だが今度は今までで一番強烈だぞ!SC28Eを突っ込んだからな」

「SC28Eって、まさか・・・CBR900だったりするかい?」

「Ja!その通りさ!強烈に仕上がってるよ」

「本家本元の三倍のパワーじゃないか」

「トラビにホンダのエンジンは大正解だ。乗るか?」

「後ででいいよ、さ、中に入ってコーヒーでも飲んで」

「おや、新しいバイトでも雇ったのかい?」

「あぁ、違う違う、玄白君、赤城 玄白君だよ」

「ハ、ハロー・・ナイスチューミーチュー」

肩をこわばらせ、挨拶する、未だに外国人には慣れない。

「おいおい、そんなに強張らなくても大丈夫だよ、日本語はバッチリだからさ」

「あ、えと、ども」

案外なまでにスラッとした日本語に肩の荷は軽くなるが

「よろしく、ラインハルト・バルクホルンだ、Sehr erfreut.」

「え?え?」

やはり、ネイティブなだけに初対面ではなんと言ったかは聞き取れない

「はっはっ、気にしなくていいよ」

「ラインハルトはドイツ人、もう日本に来ての生活の方が長いんじゃないかな?」

「ドイツ人」

「俺はベルリン生まれ、いわゆる東ドイツ人だったワケよ」

「こっちへ来たのが二十代だったよね?」

「まぁな、当時は色々あってさ、愛しいトラビも捨ててきたよ」

「ラインハルトはいわゆるボディの名手、補強に関するノウハウなら
右に出るものは少ないんだ」

「へぇ・・・、マスターでも勝てないんですか?」

「何を隠そう、僕がラインハルトの顧客だから」

トラバントで現れたこの日本語を堪能に使いこなすドイツ人
彼はラインハルト・バルクホルン、一部の人間には
ボディ補強のレベルの高さで知られており
車の旨みを引き出す、パワーを封じ過ぎない
人間に訴えるボディづくりをするとウワサされる。









「ほー、これが手に入れたアウディ」

「ハイ」

「どれどれ」

玄白からキーを借り、カギをアンロックすると
ドア、ボンネット、トランクを全部開け、まず、普通に車内をグルリと見まわし
ドアの開け閉めをしたりするラインハルト

「ハナシの通り、フルノーマルで、ECUを書き換えたトコか」

「フェーズワンとしては、350psを予定している。」

「350ps?何も追加しないのか?」

「まずはメカチューンでやれるところまで」

「軽量化及び補強は?」

「シャキッとさせる程度・・・かな」

マスターとラインハルトはひとしきり、チューニングする方向をパパッとまとめる。

「補強よりも軽くするのが最初にくるかもな」

ダッシュボードにあるTT3.2の取扱説明書、メンテナスブック、オーナーズブックを
それぞれ、しげしげと眺めながら、ラインハルトなりのメニューを構築しているのだろう
運命の引き合わせか、ドイツ本国仕様のTTに付属するほとんどの小冊子はドイツ語
語彙の壁は早々に突破となる。

「クワトロシステムを生かせば、軽くするだけで構わないかもしれない」

「補強はいらないんですか?」

「アウディは基本的に剛性を高く作るからな
軽量化は前を徹底して軽くしていく、クワトロシステムの特性上
フロントヘビー傾向なのが泣かせるんだ、あれだ
日産のアテーサシステムはしってるだろう?」

「あ、ハイ、GT-Rですよね」

「そうだ、あれはアテーサがアクティブでクワトロはパッシブ
反応はパッシブの方が優れるんだが、全域的なステアリングは
アクティブの方が上を行く、だがパッシブも悪いわけじゃない
単純な分、やりやすいコトが多い、今は50:50だが
これを40:60にするといいだろう」

「構造的な問題ですか?」

「まぁな、クワトロシステムではしょうのないコトなんだ
ただ、その中でもTTはオーバーバンクが短いから、変な話
フロントのヘビー感は他のモデルよりは薄い」

「確かに・・・スポーツクワトロって異様にオーバーバンク長いですもんね」

「おぉ、クワトロを知ってるか、その通りだ
当初はターマックでは2WD勢には及ばなかったのが実情だ
究極、トルセン引っこ抜いて、FRにするかー?」

「いや、いいですよー、そんなにしたらなんかもう別物というか・・・」

「TTそのままがいいってか?」

「ハイ・・・できれば・・・」

「冗談、冗談、トルセン抜く方だけで疲れちまうよ
それでだ、基本的にはフロントから軽くしていく、リアはそのまま
だが、これだけは留意してくれ、3.2リッターV6が前に居座ってるんだ
GT-Rと大差ないくらい、フロントは重いぞ」

ボンネットをパクンッと閉めると、パンッパンッと手をはたき
キーを玄白に返す。




「さ、ルーキー、ひとっ走り、見せてもらおうか」





夕方の見通しが利きづらい峠を果敢に走りこむTT
ランエボTで走りこんだ通りにはいかないが
基本的な成り立ちは同じ、ややフロントヘビーの頑固な4WD
比較的コンパクトな車体に強烈なパワーユニットを叩きこんだシロモノ
下げられたウィンドウ伝いに、エグゾーストが心地よく聞こえる・・・・と

けたたましいエグゾーストも混ざってくる

「おいおい徹三!トラビで来るなよ!」

横で、背後を見るなり大爆笑し始めるラインハルト
玄白もチラリと背後をミラー越しに見ると
小さい水色のトラビが猛烈な勢いで追いかけてくる
響くエグゾーストは超高回転のバイクユニットそのものの音で
軽さと、馬力で押す姿はまさしくゴーカート
TTが軽くいなすギャップにも機敏にリアクションし
横っとびするように走るトラビ、しかしそれを押さえつけるマスターに
玄白は再び驚く、遜色ない速さでトラビはTTにビタづけ

だが、パーシャルスロットルのみで抜けたうえで加速を強いられる場面では
トラビの不安定感がミラー越しにも伝わる、対しTTは
その剛性の良さと、断然やわらかいサスペンションで
安定感は群を抜いて良好だ。







玄白やラインハルトが昼のうちに、TTの走りを満喫し
帰った後も、ヤビツ峠はそこにあり続けるし、また
ヤビツ峠を舞台に、違う車のストーリーが展開されるのも
だれのものでもない、不特定多数が走れる公道だからである。

「少しばかし、フロントサスをユルめるか・・・」

桃野は、ついこの間の勝利にうつつを抜かす暇もなく
せっせとセッティングに挑んでいた。
走っては変え、走っては変えの繰り返し、セッティングの
泥沼はなかなか抜けられない、さっきよりもベストに思えるし
逆にそうでもなければ、少し時間をおくと印象が変わる
果てしなく終わりの見えない作業
路肩にR32を止め、ボンネットを開けて、しばらくセッティングだけを
考えて考える。
米軍チームと戦った時の、最高速ギヤ比と足回りを
もう一度ヤビツ仕様に戻すのだが、マスターに微調整してもらった
エンジン特性が思いのほか気に入り、それに合わせたセッティングを
し直すこと早数日、仕事が終われば当たり前のように峠を走りこむ

「あ、ガスがねーや」

峠を突っ切り、秦野の小さいガソリンスタンドでガソリンを給油しながら
考えこんでいると、背後に聞きなれたRBの音がする。

「・・・・・」

「・・・・・」

後ろを振り返る桃野と、そこにはガンメタのR32に乗る和平の姿
沈黙に冷却された空気がスタンドを包み込み
和平もセルフ給油を始め、給油機越しに言葉を交わす。

「丁度いい、ここであったが百年目・・・って長さじゃないが」

「拳着、つけるか?」

「俺が勝つ、桃野、お前だけには負けねぇ」

「そっくりそのまま返す。」

ゴッ、給油ノズルが満タンの合図を送ると、和平はノズルを元の場所に戻し
給油キャップを閉め、清算を済ませると、R32のエンジンを始動させる。

共に外観にはさほど手は加えられておらず、中身だけは本当にそのベクトルに
絞られ、タダの車好きという枠からは漏れ、純粋に速さを求めるカタチ
公道でやれる範囲なんてもう超えている。

心なしか、フロントウィンドウには雨の訪れを現す、小さな水滴が
いくつもいくつも降り注ぎだした、空気の湿り気具合から感じる限り
本降りになることは、二人にも予測ができた。






「一本で終わらせる・・・ッ!」








ヤビツ峠の秦野方面入り口から、ローリングスタートの態勢で走り始め
彼らなりのコントロールを超えた瞬間、R32同士の対決が火ぶたを切る。
双方共に、RB26DETTのパワーを全面に押し出したフレキシブルな特性
パワー感だけならば右に出るものは中々居ない。

湿る道路はスリッパリーな様相を呈し、地味に泥や油が浮き始める。
先行する桃野が掃除役を強いられ、和平はそれをなぞるように
タイヤを無駄なくマネンジメントしながら追う
コーナーのたびに、R32のプロジェクターヘッドライトがガードレールに反射し
その光さえも飛び越えそうな速さで、二台のR32がヤビツを攻め立てる。

気づけば、すでにワイパーがフル稼働までもう一歩というくらいに雨が強まる
丹沢山を境に雨雲が鬱積した雨の量が増えていっているのだろう
しかし、木などが傘となり、部分的にはビショビショでも一部では
未だ湿った状態の泥油の浮く不安定な状況
4WDということと、賢いアテーサのおかげか、コーナー脱出は安定しながら駆けていくが
コーナーリング中や、ブレーキングでの姿勢は、彼らの腕によるところが大きい
もちろん、この雨の状態でも同格のスープラやNSXらに比べれば、進入も姿勢も
ナーバスさは皆無、ただ、スピードがスピード、アテーサでも気は抜いてはならない
先行する桃野の水しぶきが、気まぐれに和平の視界を遮るが
丸い二灯のテールランプが目印にもなる。

「泥や油・・・マジもんの水たまり・・・Rじゃなかったら走らんねーな」

先行する車内でボソッと呟く、R以外に安定して走れるといったら
クワトロシステムのアウディか三菱とスバルのパーパースビルド位









「おー、雨かよー雨は嫌だねー」

「ふぅ・・・ホント、雨は油鬱だよ」

「あ、雉原専務」

「今日もお疲れさん」

「そうだ、専務、雨だし送っていきますよ」

「いやぁ悪いよ、高寺君とは家が逆方向だしな」

「大丈夫ですって」

「んー、そうか?じゃぁ言葉に甘えさせてもらうよ」

「横浜でしたよね?ご自宅」

「あぁ、港北区まで頼むよ」

「港北区ですね」

「しかし、これはCSLだろ?すごいなその若さでCSLなんて」

「いやぁ、女がいないもので、車にだけつぎ込めてる感じです。」

「しかも、かなりチューニングしてる感じだね」

「あ、はい、やれることは結構やってあります。お陰様で雨の日はあまり・・ですが」

「アクセルを踏み込むと?」

「こうなります」

水をかきあげて、ホイールスピンしながら信号発進するM3CSL

「おほーっ、これは強烈だな。」










雨は敵か味方か、その存在は彼らにとっては永遠のグレーゾーン
時には味方し、時にはトドメとなる。
生憎にも、桃野と和平、雨はどちらの味方でもなければ敵でもないようである。
膠着するする勝負、ドライの時よりも、アベレージスピードは下がっているが
その迫力は尋常ではなく、雨脚の強くなることさえどうでもいいといわんばかり
コーナーから抜けだしたときの加速は、RB26DETTとアテーサあってのスピード
90年代前半の車といえども、R32の賢さは頭一つ抜きんでている。
その賢いR32同士の対決、得手も同じならば、不得手も同じ
膠着は続き、一本で終わるかどうかも怪しい、終わらなければ即引き返しの
往路突入となるのは明白









「台風か、どうりで雨が強いわけだ」

嶋倉は温かいコーヒーを190Eの車内で燻らし
バケットシートに身を沈めたまま一息つく
ボディには雨が強く当たる音、その音も悪くない

「インスタントにしちゃぁ結構ウマいなこれ」

近くのコンビニで買ったインスタントコーヒーに驚きつつ
フロントウィンドウから覗く先は、雨と雲で鈍色の世界
缶コーヒーには無い、インスタントの味を楽しみながら
黒い190Eも、鈍色の世界に溶け込んで、台風の夜を見物する。









「現zい・・、関東一円をty・・心に非常に大g・・あたの台風が・・・」

桃野のR32もラジオから現在の状況を拾う

(台風?規定雨量に達したらマズイな・・・)

コーナーというコーナーのインには水たまりが群生し
アベレージスピードもどんどん下がる。
しかし、それでもアクセルを開けれるところは開けていく
これが暗黙のルール、アクセルを抜くわけにはいかない
認知的不協和の理論ではないが、この状況でアクセルを抜く事に
違和感を感じずにはいられないし、雨だから勝負を預ける。
そんなことは選択肢にない、走り続けるのみである。

台風の横風、落ち葉や小さい枝が道に散乱し、R32が破損するリスクさえ出てくる。

(一本どころか、気を抜いたらすぐ置いてかれんな・・・)

意外なまでの集中力の摩耗に、ハタと気づき、今一度気を確かにする和平
確かに、雨風、落ち葉、劣悪な視界、集中力を削ぐには十分すぎるほどの状況
その強い暴風雨に、桃野のR32の輪郭さえボヤいでしまう

さらに

「うおぁ!」

船の様に水をかき分ける、もといタイヤで踏み分ける二台のR32
ついに、浅いが道を覆うほどの浅いウォータースプラッシュまで出現しはじめ
下手に遅れると、車高の低い二台はウォータースプラッシュに呑まれてしまう

さらに、追い立てるようにラジオからは、ヤビツ峠が規定雨量に達し
封鎖を決定されたとの速報が飛び込んでくる。
オーバースリッパリーと化す道路、だが差は依然つかないまま
もう少しも前が見えない、ワンミス・イコール・ゲームオーバー







「おーおー、すっげー暴風」

「こんな日にゲート閉めに行かなくてもだれもはいらねーよな」

「あーたしかに、だけど仕事だ、しょうがねー」

黄色い車体と紅白のカラーリングが施された道路公団のエクストレイルが
宮ヶ瀬方面のゲートへ、閉鎖をするために向かう
彼らよりも早くコトを終わらせなければ、桃野と和平は閉じ込められてしまう








負けられない勝負に、脱出というなの追い打ちが加担し
そのプレッシャーは相当なもの、しばらくもしないうちに
道路公団の黄色いパトロールカーが門を閉めに来るに違いない
展望台を過ぎ、すでに「裏」と呼ばれる道幅のツイスティな方を走っており
もう出口は近い、しかし近いようで近くない出口
裏と区分される宮ヶ瀬方面のヤビツは秦野方面に比べ、狭くギャップもあり
難しい様に思えるが、実は裏の方が彼らのホーム、表はそう行くことがない

ホームということもあり、エベレージスピードが回復し
危険なこの状況下で果敢に攻め立てる。
この台風で、ギャラリーや他車は無く、まさに貸し切り状態
ラストスパートの態勢を取ろうかというその時

パラパラ・・・

目前に泥の小さな塊が転げ落ちてくるのが、その殺気と共にすぐにわかる

「泥の塊?石?」

「・・・・!」

和平はパッシングとクラクションを併用し、その危機感を桃野に伝える

「やばそうだっ!」

ドライ時のような速度で限界ぎりぎりで残りのセクションを攻め立てる
二台のR32がコーナーをふらつく様なスピードで抜けた瞬間

道々に岩が転げ落ち、土砂がなだれ込む
まさに土砂崩れの瞬間を二台は飛び込むように潜り抜けたのだ。
まさに、一寸先は闇、肝を冷やし残りのセクションをまとめ上げる。
次第に道も広くなると、今か今かと和平がオーバーテイクの構えを取る。
まさに、ここから正念場、雨が降っていようと道幅の広がった道路では
R32のアテーサをどこまで使いきれるかが勝負になる。

「守備だけがアタマじゃないだろう!?」

和平が必要に桃野を追いたてる、重量的に30kg軽い和平のR32の方が
動きに幅を持たせることができ、一気に息を吹き返し
コーナーでそのままアウトから被せると、振り返すコーナーでオーバーテイク

「和平の方が軽いのか・・!」

が、脱出のラインをクロスさたため、反対車線に車を持って行った和平

ドムッ

橋のつなぎ目のギャップに乗ってしまった瞬間

「リアが逃げる・・・ッ!」

急に動きがナーバスになる和平のR32
安定した速度でその横を抜く桃野

「!?」

ギャップを飛び越えた衝撃で、アテーサのヒューズの接触が不安定になり
突如のFR状態、この土砂降りでアクセルを踏みきれないFRになってしまう和平

「くっそぉ!!!」

一気に差が付き、そのまま、今にも閉鎖されようとしている宮ヶ瀬側の
ヤビツ峠入り口ゲートに到達する桃野
ライトをパッシングさせその存在を知らしめる。



「ん?」

カッパをはおり、黄色いパトランプを点灯させ、閉門の支度をする
道路公団委員の二人にR32のエグゾーストとライトの光が届く

「おい!人が残ってるぞ!」

「まさかぁ・・・うおっ!」

勢いよく門を通過しブレーキをかける桃野
駆け寄る道路公団委員にまだ一人残っていることを伝える。

「大丈夫かい兄ちゃん!」

「まだ一人後ろに居ます。」

「まだ?」

「おー!来た来た!コッチだー!」

ゆっくりと和平のR32も門から宮ヶ瀬へと出てくる。

「これで全員かい?」

「そうです、秦野から抜けてきましたが、対向車は居ませんでした。」

「そうか、危なかったな」

「いえ」

この暴風雨の中、勝負を制したのは桃野、終盤危なかったとはいえ
アテーサのヒューズ抜けに助けられたのも、また運だろう
運も実力のうち、勝負の世界ではどういうドラマであれ
勝ちは勝ちとして記録されるのだ。

勝負を終えた時間帯はまだ夜の九時と以外に早い
二台のR32はマスターの喫茶「街」を訪ねる。









カランカラン・・・

「おや」

「コーヒー二つ」

「かしこまりました」

カウンター席に座るRランナートップ2
が、正確には今日を持ってトップは桃野となり、セカンドに和平は甘んじる
マスターが淹れてくれたコーヒーを飲みながら、消耗しきった気力を補う

「言っとくが、今回は俺のミスだ」

桃野は黙って和平の話を聞く

「ヒューズが抜けたのは俺の整備不足、しかし負けは負け
今日を持ってヤビツからは出て行くよ」

「待てよ、チームメンバーはどうするんだよ」

「篠岸が継いでくれるだろう」

「はぁ?何言ってんだ、そんな勝手が罷り通るわけないだろう」

「だが・・・負けたんだ、出ていくのが筋だろう」

「いいじゃねーか、ヤビツに居れば、今日は俺が勝負を勝ち取った」

「桃野・・・・」









「いつでも奪え返しに来いよ」








「ったく・・・・相変わらず人が素直すぎるぜ・・・・ありがとよ・・・」

「ま、まぁ次も返り討ちにしてやるけどな」

「そこまでゆーかぁー?見てろよ、次は奪え貸してやるからな。マスター、ご馳走様」

そういうと、和平は喫茶を出て行った。

「相変わらずシャイですね、これ、食べて下さい」

マスターが差し出したサンドイッチを照れながらもらい、ソッポを向きながら
桃野はサンドイッチを黙々と頬張る。

桃野がセッティングに満足するのは、この後である。











第五章

土砂崩れの整備も終わった翌週の午後

「なぁ・・・」

「気持ち悪いですね・・・」

「ずっとニヤニヤしてる」

玄白、高寺、桃野、が一瞥を投げる先には、カウンター席の端っこで
ずっと携帯電話を見ながらニヤニヤする桜宮

「なにしてんの?」

尻上がりのトーンで、桜宮を偵察する桃野

「かわいいなぁ・・・珠美ちゃん・・・流石は俺のカ・ノ・ジ・ョ」



「彼女ぉ!?」
「カノジョ!?」
「オンナ!!?」


ニヤニヤが止まらない桜宮の横でのけ反るように驚く三人
マスターは皿を磨きながら絶好調苦笑い

「えへへへ・・・今度デートなんだよぉ、どこいこうかな」

「よーし、走り行こうぜー、俺のBMWに続けー!」

「行く行くー」

「行きますー」

「なぁっ!桃野!江の島がいいかな!横浜の都会ドライブ?それともヤビツの展望・・」

「知らん!」

「なんだよぅー、高寺、いいとこしらない?」

「筑波サーキット、富士スピードウェイ、鈴鹿サーキット」

「そうじゃなくてさー、ロマンチックなとこ、玄白、なんかいい案ない?」

「は!TTが俺を呼んでいる!」

「おいおィ、そんなにムキになってうらやましがるなよー」


「はぁ?」
「あぁ?」
「・・・」


「マスター、節分用の豆、ある?」

桃野がおもむろに、マスターに大豆を要求する。

「豆ですか?」

ヘラヘラする桜宮に普段のキレのいいリーダーっぷりは皆無
彼女ナシの三人の逆鱗にしっかり触れ、一斉射撃が始まる。

「おぉー!ありましたありました。」

桃野がその豆を受け取ると、桃野の号令で一斉射撃が始まる。

「敵はカウンター端にありぃ!ってぇ!!!」

マシンガンのごとく豆を投げる投げる

「あだっ!いだっ!いたたたたたたた!!!」

投げに投げる桃野

撃って撃ちまくる玄白

投げて食う高寺

「食べとる!?」

三人並んで射撃しているはずが、一番左に立つ高寺は
二回に一回、ボサッと口に大豆を投げ込んでいる。

「ってぇ!ってぇ!」

桃野の射撃は止むことを知らない

「ぐはぁつ!ぐはぁっ!これも珠美ちゃんとの間に神が与えた試練かっ!」

ブチッ

「いい加減にせーやー!このヘラヘラ大魔王!」

渾身の力を込めて投げた豆が

カランカラン・・・

「ふぐぉっ!」

入り口で大の字に倒れる嶋倉、おでこに大豆がクリティカルヒット

「っかぁ・・・心外だな・・・いきなし大豆を撃ち込まれる事はしてないけどな」

「あ、すんませーん・・・」

一瞬微妙な空気が流れる

「全部、桜宮さんのせいじゃー!」

「待て待て、何があったんだ桃野」

後ろから嶋倉が抑える。

「彼女の自慢をするからですよー!しらじらしく!」

「彼女か・・・俺も困ってるんだよ」

「はっ!まさかプレゼントをどうしようとか!?」

「それもそうなんだけど」

「デートをどうしようとか!?」

「それもある」

「うぉー!非国民がまたここにー!」

「一番の問題は彼女が画面からでt・・・ふがっ!」

「シーッ!それは言うな!好感度が下がるっ!」

とっさに台詞を遮る高寺

「・・・・・画面?」

「・・・・・出てこない?」

桃野と玄白が、ものすごい不審がる視線を送る。

「ゴホンッ、そんな話は置いておいてだな」

「画面・・・」

「出てこない・・・」

「彼女云々より、最近、ちょっとヤバめな三台の車がココへ来るという
ウワサ聞いてさ、それを伝えにきたんだ。」













「この先・・・懐かしい・・・」

紫のR33の中で呟く苑森、後ろにはエリーゼ、F355と続き
ヤビツ峠へと刻一刻と迫っていく。

「懐かしすぎてなんだか笑えてくる・・・でも楽しみ」

宮ヶ瀬湖までの長い大きな上り坂に国道412から左折し上る。

「そう・・・・・・・あの時以来、何年ぶりかしら・・・・




ねぇ・・・先輩・・・・・・・・・・・・



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・フフッ」











「うぷっ、豆食いすぎたなオイ」

「高寺さん・・・・」

「で、その首都高上がりのパープルタイプクラブっていのが

玄白、お前をターゲットにしてるらしい」

「俺ですか!?」

「そう、お前」

「玄白、お前もなんだかんだで名前が挙がってんだなー」

「まだ軽いパワーチューンだけですよ・・・」












豆まきの後、騒ぐ桃野達を置いて、一人、ヤビツ峠へ入っていく玄白
霧が出てき始め、峠に入ってそうそう、引き返そうか悩むが
七分ほどの速度で、流すのも悪くないと
窓を開け、空気の湿り気を肌で感じながら、ヤビツ峠を進む

「コーナーアプローチは適切な速度を即時に判断っと・・・」

マスターに叩きこまれた基本を復唱しながらコーナーを駆け抜ける。


霧に隠れ、紫色のエリーゼが付かず離れずの距離でTTの赤く後引く
ブレーキランプを追いながら、ヘッドセット越しに指示を仰ぐ

「さぁキキョウちゃん、存分に楽しんできて」

「はぁーい、了解ですっ」

霧の中からベールを脱ぐように現れたエリーゼ
TTの背後に近付くと、ポピュラーな合図で玄白をけしかける。

「パッシング?そんなコトやれる天気じゃねーよ」

玄白が広くなるすれ違い用のスペースに止まり、ハザードを付ける
走る意思がないことをアピールするが

「なんで前にいかないんだよ・・・」

TTの後ろに付いたまま、エリーゼも動かない

「事故ってもしらねーぞ」

ミラー越しににらみ合い、玄白が静かにTTを動かし始め
ハザードを点灯させると、鋭い加速でヤビツ峠を攻め始める。

「お姉様、ターゲットがノってきました」






時を同じくして、ヤンヤヤンヤと騒ぐ喫茶から高寺が出てくるところを
紺色のF355に乗る松籠が苑森へ伝える。

「雪乃、行ったわよ」

「ありがと」

短く返すと、アイドリング中のRBを数回ふかし
レーシングでの状態を確かめると、ヤビツ峠へまぎれていく高寺のM3の後を追う。






湿気により満遍なく地面が湿り、微かに泥と油の浮きはじめが起こり
先週、土砂崩れを起こしたところは補修工事が終わったばかりで
地面には泥土が乾燥してたものがふやけ始める。

「・・・なにこのスリッパリーな路面!」

TTは平然と駆け抜けるコーナーでキキョウのエリーゼは足元をつつかれる。

「気をつけろよ、ヤビツ峠は普通のトコよりもスリッパリーなんだ」

ランエボTで走りこんでから、雨の日はこのスリッパリーな路面
との格闘だったが、基礎を積み、傾向さえ解ると
そのスリッパリーさは味方と化す。
今日、この状況は確実に玄白へ味方と働く、トラクションのかかるボディ
高性能な4WDシステム、地の利を生かせること
キキョウが欠いて苦労するものを全部持っているのだ。

玄白は絶対的に遅いペースで、安全に振った攻めで走る
普通に考えれば即刻パスされてしまうペースだが
こう不安定要素が支配する状況ではベターペース
キキョウは一段高いギアでの走行を考えるが、低速トルクの細い
エンジンでそれを行うことは、ロクにペースをあげることもままならない現れ
ちぎられはしないものの、集中力の消耗が著しく
何かの拍子にぷっつり切れてしまうかもしれない。

加えて、時を追うごとに濃くなる霧、道が解らない上に
どう攻めていいかも解らない、道をそのままなぞるしかない苛立ち
イニシアチブは早くも玄白の手中に落ちる。








「かぁー、静かにウワサになってるルーキーを見に来たものの・・・」

ボクサーサウンドが響く車内で濃霧にため息をつく

「こんな濃霧じゃぁなぁ・・・・」

GC8、そう区分されるインプレッサにのるこの男
どうやら、玄白の噂を聞きつけて、ヤビツまで来たようだが
この霧には心底ガッカリの様子で、せめても宮ヶ瀬で
お土産でも買っていこうと、ゆるりとヤビツ峠を流す。

しかし・・・

「お・・・なんか競ってるような音がすんな・・・」

狭い宮ヶ瀬区域のヤビツで器用に車を方向転換させると
すれ違い用のスペースで静かにそれが来るのを待つ。
携帯電話から国民的ロボットアニメの主題歌が流れると
ワンフレーズ聞いてから電話に出る。

「ど?遭遇した?」

「メボシイ感じのヤツ、来そうな雰囲気」

「目標はオレンジのTT3.2、話によりゃぁほとんどドノマールらしいが・・」

「油断しないで行くからダイジョーブ」

「ん、任せたよ郷矢」

「あいあい、じゃ、切るよー」

携帯電話をしまうと、丁度、オレンジのTT3.2と紫のエリーゼが走りぬけていく

「よし、たった今遭遇!」

一寸先も見えない濃霧の中をもう一台の勢力が飛び出していく
ボクサーサウンドはすぐにキキョウの耳にも届く
バックミラーには映らなくとも、その存在はすぐにバレる

「松籠さん、後ろからインプレッサが!」

「いい?キキョウちゃん、落ち着いて、ダメなら無理せず譲って!」

「すいませんっ!退きます!」








その更に後方では高寺vs苑森のバトルが繰り広げられ・・・

「うぇ〜・・・・豆食い過ぎてキモチワル・・・・・」

ずっと後ろでパッシングや蛇行しても、気持ち悪さで
ステアリングにしがみつくのがやっとの高寺
後ろなんか気にしちゃいられない

「Uターン・・・Uターン・・・」

「なんで!気づかないの!?、さすが・・・先輩、一筋縄ではいかないのね」

「広いとこ・・・広いとこ・・・」

「何を待っているの・・・・?、得意なエリア?霧が晴れる瞬間・・・?」

「うぉっ!喉まで戻ってくる!呑みこめ!呑みこむんだ俺!」

「どう欺こうとしても無駄よ・・・」

あからさまに食い違う思想、新手のコントにすら思えてくる

「スウェードの純正ステアにゲロるわけにはいかねぇ・・・!」

広い所をようやく見つけると、そそくさと方向転換し始める。

「え、何をしているの・・・・!」

「お・・・R33が居たとは・・・ごめんちゃい、ちょっと向きかえるよ・・」

「ここからが本番というワケね・・・」

ヨタヨタと戻っていく高寺の背後で、苑森が豪快なパワーターンを決め
濃霧に紛れようとするM3CSLを追随する。

「っく・・・早く戻らないと・・・・外で吐くなんて法律違反・・・!」

くだらないプライドで、嘔吐をこらえる高寺
我慢の限界が近くなるにつれ、じょじょにスピードが上がっていく

「ついに本性を現した・・・!逃がさない!・・先輩!」

しかし、その狂気じみたトイレへ向かう気迫は、濃霧をものともせず
ドライ路面を走るかのようにM3CSLを弾き飛ばす。

「うごぉ・・・!!!」

「・・・・!これが霧の日のペース!!?」

SMG2はどんな状況でも瞬時にギアチェンジをすませるため
コーナー脱出も加速もパワーロスは皆無
また、エンジン屋らしさを全面に強調された32 6S4ユニットは
パワーの差をフィールで埋め、一刻も早くトイレへという
高寺自身の超強力な集中力が、M3CSLを驚異的な速度で
マスターの喫茶まで飛ばす。

起伏やギャップに折りたたまれたコーナー
一見、GT-Rのトラクションが光る様に思えるが
安定の裏返しは融通の利かない動き
頭をねじ込んで、コーナーをアクセルで曲がっていく高寺
対し、的確な減速で姿勢をつくる苑森

低速域ではその的確な減速や姿勢変化が確実にリズムとかみ合わない
首都高の様な高いスピードレンジを出せれば苑森は速い
しかし、コマゴマとコーナーに振り回されるところで
正確すぎるリズムが逆に足を引っ張る。

「・・・・離されるッ!」

GTウィングやエアロパーツすら纏っていない純正エクステリアのM3CSL
リアの動きと、立ち上がるトラクションが絶妙な均衡を保ち
重さを感じさせない、これでGTウィングをつけたら
確実にコーナー進入のリズムが変わってしまうだろう。





「ほゥー、随分丁寧な走りだなー」

TTの背後で追うインプレッサの郷矢は、玄白からそれを感じ取る。
まだ研磨しきれていない部分もあるが、その他は相当に澄まされてて
TTを当たり前のように曲げてくる。

「コイツよりも一回り、二回りも重くカッタるいのをよく曲げるなぁオィ」

後ろで見ていて不安を感じない、そしてついていきやすい。

「あれ?リズムに乗せられた?」

ハッと我に返る郷矢、正直簡単にブチ抜ける相手だが、なにか惜しい
車は万全のコンディション、正直ヤビツのトップクラスが出てきても
まったく躊躇せずに噛みつけるくらい
ただ、噂のTTは案外にも丁寧で慎重、で、ちょっと速い

「速いっちゃぁ速いけどーとびきりってわけじゃないんだけどなぁ」

もちろんインプレッサに対し、かなり重く、パワーも劣るTTが
郷矢より遅いのは目に明らか、しかし郷矢は玄白を抜かさない

「不思議なやっちゃなー・・・ま、予想よりイイカンジ?」






バァンッ!!!!

「トイレがりるぼ!」

「!?」

目にもとまらぬ速さでトイレに駆け込む高寺、マスターびっくり、嶋倉もびっくり

しばらく喫茶店には不思議な硬直感が漂い

トイレの水が流された音がする。

「ベリーぐろっきー・・・」

「豆食い過ぎー」

嶋倉がゲッソリした高寺を見て笑う

「あれ?桜宮は?」

「帰ったよ、彼女のとこに行くってさ」

「あ・・・そ・・・キモチワルー豆ってこんなに当たるの?」

「どうぞ、紅茶です。」

「あでぃがど・・・マズター・・・」


喫茶「街」は夜も騒がしい
パープルタイプクラブとの初遭遇は何とも空回り
だが、確実に遭遇話が噂となって
彼らの異質な車種レパートリーも噂に尾ひれをつけ
知らぬ合間に名前が広がっていく。








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キキョウは超巨大会社の令嬢だってさ!
春沢グループは今年もル・マン24時間レースを応援します。